知財管理技能検定1級ブランド専門業務試験合格への道かな?

知財管理技能検定1級ブランド専門業務試験に向けて諸々のこと、その他書籍やニュースなどの知財、その他の法律等に関して、思いついたら書きます

書籍紹介その34 レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?

「隠すべき(アイデアをノウハウとして秘匿する(=ブラックボックス化)べき)か、隠さざるべき(アイデアを特許出願して権利化をはかる(=アイデアを公開することになる)べき)か、それが問題」です。

簡単に言ってしまえば、「特許とノウハウ、どちらでアイデアを守るか」ということです。

結論を言いますと、「どちらも一長一短あるので、いろいろな要因を判断し特許とノウハウをうまくつかいわけて、アイデアを守る」ということです。

 

でも、言うは易し、行うは難し、です。

 

このためのヒントとなりそうなことがこの書籍には書かれています。

そしてそのための1つの力となるのが、この書籍に書かれている知財コミュニケーション力」なのかもしれません。

 

レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?:特許・知財の最新常識

レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?:特許・知財の最新常識

 

 最初、私は、この著者は特許を否定しとにかくノウハウでアイデアを守れというタイプの人だと思っていました。

 この書籍の最初の方で著者は「(全てではないにしても、)アイデアは特許よりもむしろノウハウとして秘匿すべき。」というようなことを主張していますので、ついそのように思ってしまいました。

でも、これは私の誤解でした。

詳しくはこの書籍をお読みいただくとして、実は私も同意だったりします。といいますか、これは当然のことだとさえ思ってます。この点を誤解している人は少なくない気がします。なんでもかんでも特許出願し登録すればいいわけではないでしょうから。

ただ、著者は「アイデアは必ずノウハウとして秘匿しろ、特許出願をするな。」と言っているわけではけっしてありません。むしろ、「両方をうまく使いわけろ。」、「その見極めができるようになれ。」と主張しています。この点は誤解無きようお願いします。

 

そもそもアイデアを完全に隠すことなど、自分の心にでも秘めておかない限り、まず無理です。ノウハウとして秘匿してもそれなりの限界はありますし、ましてや特許出願したら絶対無理です。

 

では、アイデアを隠すことができない(=アイデアが公開される)のに、何故特許出願をし特許権を取得しようとするのでしょうか。

 

建前とはいえ、特許が公開されることには理由があります。それは「特許を公開することが産業の発展に寄与する。」と考えられているからです。

公開するかわりに、特許権者は、一定期間、その特許技術を独占して権利行使できます。

これが「特許制度」なのです。技術を独占したいからこそ、特許出願をして特許権を取得しようとするわけですが、その代償としての「産業の発展のための特許の公開」なのです。

 

もっとも、現実は単純かつきれいごとではすまされませんし、この書籍でも指摘されているように様々なデメリットが特許出願にはあるわけです(そのデメリットについての詳細は、この書籍をお読みください。)。

 

そこで、アイデアを特許出願せず、ノウハウとして秘匿してしまえばいいじゃないか、という発想になるわけです。 

イデアを秘匿しておけば、それが漏洩されない限りは、アイデアを隠し守ることができるからです。

 

でも、それでも完全ではありません。

これは、私独自の見解ですが、そのノウハウとして秘匿したアイデアを商品化し世間にて販売したとして、その商品(に使われた技術)がリバースエンジニアリングなどにより分析され、その結果その商品のノウハウとしてのアイデアが(完全でなくとも)知られてしまえば、そのアイデアを活用した(同一ではなくとも)類似商品が作られてしまう、そういうリスクは多かれ少なかれ存在する、と考えます。

例えば、書籍のタイトルにある、コカ・コーラや、ケンタッキーフライドチキンで考えてみたいと思います。

この2つの企業は、商品のアイデア(味のレシピや製造方法)をノウハウとして秘匿している企業の代表的存在といってよいと思います。そのノウハウとしてのアイデアの秘匿については、かなりの努力と苦労があると思います。でも、その甲斐あって、この2つの企業は現在の地位を得ているわけです。

ただ、コカ・コーラと同じ味は作れなくても、コーラ飲料を作り販売している企業は他にもありますし、同様にケンタッキーフライドチキンと同じ味は作れなくても、フライドチキンを作り販売している企業は他にもあります。

それらの企業は、もちろんコカ・コーラケンタッキーフライドチキンほどの高いクオリティの商品をつくって高い売り上げ、利益をあげられてはいないでしょうが、それでも自らのビジネスが成立する程度の売り上げ、利益はあげられているわけです。

そして、似た商品ということから、多少なりともマネをしている可能性はあるわけでして、もしかしたらコカ・コーラケンタッキーフライドチキンの商品を分析してそのノウハウを多少はつかんでいるかもしれません。その上で、もちろん独自のノウハウを持っていることなのでしょう。

そのぐらいしなければ、それらの企業はそのビジネス市場からは撤退せざるを得ないでしょう。撤退したら、市場はますますコカ・コーラケンタッキーフライドチキンの独占になっているはずですが、実際はそうなってはいません。

私の言いたいことがおわかりいただけているでしょうか?

 

このように、アイデアをきびしく管理してノウハウとして秘匿していても、そのアイデアを活用した商品を発売していれば、多少なりともそのアイデアが知られてしまう可能性がないとはいえないわけです。

特許出願をすれば、出願内容たるアイデアが公開されてしまいまい、結果その内容が知られてしまうことと、結局同じことになる可能性がノウハウには存在するのです。

イデアをノウハウとして秘匿しようが特許出願して特許権を取得しようが、程度の違いはあれ、どちらにせよある程度のアイデア情報は漏れてしまう可能性があるのです。

 

著者は、アイデアは秘密にしておき外部に「見せない、出さない、話さない」ことを主張されてますが、商品として販売している以上、完全には隠し立ては無理です。

 

では、どうすればいいのでしょうか?

 

前述のとおり、アイデアは、完全に隠すことはできませんが、ある程度には隠すことができます。

また、アイデアを隠すことと、アイデアを守ることは別問題だといえるでしょう。

なので、「アイデアを守ること」が一番の目的ですから、そのために(アイデアを完全には隠しきれないとしても)アイデアをノウハウとして秘匿するか、アイデアを公開することになっても特許権を取得してアイデアを独占的に使用できるようにするか(これも一つのアイデアの守り方です)、状況に応じてベストな選択をして、うまくつかいわけるしかありません。

これを一言で書くと、この書籍でいうところの「オープンクローズ戦略」です(ここでいう「オープンクローズ戦略」とは、本来の「オープンクローズ戦略」とは異なった概念であることに注意してください。)。おわかりと思いますが、オープンは特許、クローズはノウハウ秘匿を意味していて、両方をつかいわけてうまく活用しろ、ということです。

「オープンクローズ戦略」についてはこの書籍の第6章に書かれていますので、詳しくはこちらをお読みください。私はあえてこれ以上は書きません。

なお、「オープンクローズ戦略」の他、ヒントとなる様々なことがこの書籍には書かれています。「知財コミュニケーション力」の必要性も説かれています。

 

しいてこの書籍に私が同意できない点を書けば、少し知的財産管理技能検定3級を持ち上げすぎのきらいがあるように思いました(笑)。個人的には、3級ってたいしたことなくあまり役にたたないと思うのですが(笑)。ま、これについても詳しくはこの書籍を読んでみてください。

 

 

閑話休題大事なことは「アイデアの保護を常に自覚、意識して、ノウハウ秘匿をするにせよ特許出願をするにせよ、本当に必要ならアイデアを守り続ける意志と覚悟を持ち、そして実行し続けること」ということなのだ、と思いました。

そして、おそらくそのために必要なものの一つが、「知財コミュニケーション力」なのでしょう。

 

 

 

追伸

下町ロケット」の再放送SPを見て思いましたが、基本特許とか、改良発明とか、ライセンスとか、それらを考えるとまた複雑になりますが、本当はそれらについても考える必要があります。

 

 

 

今回が、2016年最後のブログになります。また来年2017年も宜しくお願い申し上げます。

仮処分決定 コメダ珈琲店vsマサキ珈琲

興味深い裁判所の仮処分決定がでました。私が知る限りでは、日本で初めてトレードドレス(※)についての侵害が裁判所で(仮処分決定とはいえ)認められた事案だと思います(これまでは、可能性はありとしつつも、判決(今回は判決ではなく仮処分です)で侵害が認められるというようなことはありませんでした。)。

 

 

コメダ珈琲店は、ご存知、名古屋を中心に日本各地に店舗フランチャイズ展開をしているコーヒーショップです。

マサキ珈琲は、和歌山市に2店舗ある、ローカルコーヒーショップだそうです。ミノスケとかいう会社が運営しているそうです。

 

マサキ珈琲の、店舗建物外観や、メニュー、皿やカップ等が、コメダ珈琲店のものに酷似しているということで、コメダ珈琲店側が(おそらく不正競争防止法違反ということで)東京地裁に訴えたそうです(なぜに東京地裁なのでしょうか?ちなみに、食器類は仮処分の対象にはならなかたそうです。)。

そして先日、 マサキ珈琲に対して、店舗の使用禁止、差止仮処分の決定がでました。今回は仮処分、別途正式な裁判が進んでいます。仮処分に対し1年半ほどの期間がかかったらしいので、めちゃくちゃ時間かかりましたね(通常仮処分の決定にかかる期間は、その性質上かなり短いらしいです)。

 

詳しい内容はまだ確認できていませんが、日本でトレードドレスの侵害を認めたケースとして、注目すべき事例となったのは間違いないでしょう。

 

日本の商標法制度では、トレードドレス商標は認められていません(※)。政令でも定められていません。トレードドレスを商標法で商標として認めているのはアメリカぐらいでしょうか。だから、今回は不正競争防止法違反での裁判だと思いました次第です。

ただ面白いことに、コメダ珈琲店は店舗建物外観を、日本ではトレードドレス商標は認められていないのでそのかわりでしょうか、立体商標として商標を出願し登録しています(※)(登録番号5851632号)しかも、出願は今年2016年の2月19日、すでに裁判が始まっている状態での出願です。そして、早期審査制度を申請し早期に審査をしてもらって、5月20日には登録となっています(通常、出願から登録までスムーズにいっても、約半年かかります。)。

この商標の出願、登録が裁判所の判断、決定にどのような影響を与えたかはわかりませんが、コメダ珈琲店側としては思いきったことをしたと思います。

弁理士などのブログなどで、「商標法に基づく裁判ではないようだが」などと書いてあったので、いったいどういうことなんだろうと不思議に思っていたのですが、まさか店舗建物外観を「立体商標」で出願登録したとは思ってもみませんでした(※)。

 

 

話は変わりますが、裁判より前に、両者はちょっとした関わり合いがあったそうです。

ミノスケは、マサキ珈琲をやる前に、コメダ珈琲店に、フランチャイズ申請をしていたそうです。しかし、どういうことがあったかは私は知りませんが、コメダ珈琲店はその申請に対して断ったそうです。

そこで、以下は私の単なる妄想なのですが、ミノスケは、実はコメダ珈琲店フランチャイズを断られる以前に、すでにコメダ珈琲店フランチャイズ店舗の準備(店舗建物を作ったりとか)をしていたのではないかと。しかし、コメダ珈琲店フランチャイズを断られてしまったため、その準備したものを利用してマサキ珈琲をオープンしたのではないかと。あくまで私の妄想です(笑)。

あるいは、コメダ珈琲店愛をめちゃくちゃ強くもっていたミノスケは、コメダ珈琲店からフランチャイズを断られたため、ショックを受け、愛が歪んでしまって、コメダ珈琲店に酷似したマサキ珈琲をオープンしてしまったのではないかと。あくまで、これも私の妄想です(笑)。

 

 

閑話休題、おそらくこの仮処分決定についてはマサキ珈琲側は不服でしょうから、マサキ珈琲は異議を申しでるでしょう。また、正式な裁判はまだまだ続くわけです。なので、この裁判まだまだ目がはなせません。要注目です。

 

 

 

 

トレードドレスといえば、最近の上海での 「大江戸温泉物語パクリ事件」も一部トレードドレスの問題があり、こちらも興味はありますが、なにぶんわからないことだらけなので書けません。

ま、くまモンに関しては、間違いなくやばいと思います。だいたい「『大江戸』温泉物語」なのに、なぜ「くまモン」なんだ(笑)?

しかし、裁判になってもかなり厳しいような気はします。いずれ、詳細がわかったらブログで書くかもしれません。

 

 

 

 

※実は、トレードドレスの定義は日本の商標法上ありません。政令での定めもありません。社会一般的にも定義が固まっていないといってよいと思います。

トレードドレスの定義をいうとしたら「店舗の建物外観、内装、ディスプレイ、席等の設備のレイアウト、商品ではない什器や道具類等の、形状や色や配列、制服等において、自他識別ができるものであり、企業(の商品や役務)のイメージをつくりだしてくれるもの」という感じでしょうか。このトレードドレスに商品の包装等の色や形状等の「立体商標」を含める考えもあります。コメダ珈琲店の店舗建物外観の「立体商標」は、まさにこれといっていいと思います。

なお、一般的によくある形状のものに、企業や商品の名称、ロゴ、マーク図形をつけた程度では、まず「立体商標」と認められませんし、トレードドレスともいえないでしょう。企業や商品の名称、ロゴ、マーク図形がなくとも、その形状になんらかの独自性があり識別力が発揮されないと、その「立体商標」やトレードドレスは認められないでしょうから。

(☆後日訂正。この場合でも「立体商標」として認められる場合があります。ただし、この立体形状自体が一般的によくあるものなのであれば、その形状単独には識別力は認められないでしょう。あくまで識別力はその形状にふされた企業や商品の名称、ロゴ、マーク図形にあるわけです。ですから、立体形状と平面図形、これらが全体的に立体商標として認められることになるのです。この点は御理解と御注意が必要です。)

 

確かに日本の著作権法制度的にはコミケは形式的には違法なのですが… 「単なる余計なお説教」

たまたま見つけた記事ですが。

 

「シェアしたくなる法律相談所」というサイトの、「冬のコミケ開幕へ…ところで『二次創作』って著作権侵害にはならないの?」というタイトルの、弁護士の方への取材を元にした記事のようです。

 

https://lmedia.jp/2016/12/28/74242/

 

 

私には、「何をいまさら」感でいっぱいな記事なのですが。

 

この記事においても説明されているとおりで、確かに著作権法制度的には「コミケは形式的には違法です」。「権利者に黙認されている」にすぎません。そうだからこそこれまでおとがめなく開催できているだけの話です。

 

個人的には今更な内容なのですが、そのことを知らないコミケ参加者がまた増えてきた、というところなのでしょう。だから、啓蒙のためにあらためてこのような記事を書いたのだと思います。

 

どうせ書くならば、「なぜこれまで黙認されてきたかその経緯や背景まで」ちゃんと記事を書いて欲しかった、と個人的に思っています。

そうでなければ、「コミケは違法で、黙認されているからできるんだぞ。わかってんの、お前ら?」的な感じで、わざと上から目線で書いている偉そう感だけの記事、ととらえられてしまうでしょう。

 

 

現在では、外国人がはるばる海外からいらして来場し、企業や有名芸能人までもが参加して、複雑かつ独特の世界を構築するまでにいたったコミケですが、おそらく始まった当初は、あくまで純粋なファン達による、マンガやアニメが好きな人達の、同人誌という形での、ファン活動の一つにすぎなかったと思います。

その後、流石にただで同人誌をだせないので金銭のやり取りをしていたらそれなりに儲けられたり、エロ系同人誌がでてきたり、ロリコンやおい系の同人誌がでてきたり、プロのマンガ家やアニメーターがアマチュア時代に参加していたりプロになっても参加したり、企業や有名芸能人も参加するようになったり…、といろいろ変化してきたわけです。

その中では、確かに著作権侵害もあります。でも、著作権者側(マンガ家やアニメーター等個人はもとより、出版社やアニメ制作会社、その他関係する企業、ステークホルダーまで含め)は、コミケは、あくまでファンによる活動であり、またビジネス的な話をすれば作品が盛り上がりある種の宣伝になったりする等のメリットが企業側にもあるので、目くじらを立てず黙認してきたわけです。この点、ディズニーに代表されるアメリカとは事情が異なります。

でも、権利者側もファン側も、双方WinWinの関係となる、日本独特の素晴らしいあり方だと、私は思いますが、いかがでしょうか。権利を主張するだけのアメリカでは、到底できない(おそらく理解できない)ことだと思います。

ですから、私は今のままでいいと思います。

 

 

と、いうようなことまで、しっかり書かないと、この記事は「単なる余計なお説教」になるだけだと、私は思います。

 

 

 

最後に。

記事の最後の方で、「JASRACのようにマンガやアニメにおける著作権管理団体を作るべき。」というような話をされてます。あくまでこれはプロのレベルでの話にとどめるべきではないか、と私は考えます(確かに、現在マンガやアニメの著作権管理団体はないようです。企業や関係団体組織が、それぞれ個別に管理していますので、その一元化をはかる、という主張のようです。)。

コミケのようなアマチュアレベル(コミケにはプロや企業も参加しています。プロや企業はまた話を別にして考える必要があると思います。)ならば、クリエィティブコモンズのようなやり方がベストだと思います。

もちろん、プロレベルでもクリエィティブコモンズを適用すべきところはすべきだと思います。著作権管理団体を否定するつもりは私は毛頭ありません。ただ、なんでもかんでも著作権管理団体で著作権管理をすべきだとも私は思いません。権利許諾や著作権料支払などが必要ないことにはいちいち管理の必要性はないと思いますが、とはいえすき勝手に著作物が利用できてしまうのはまずいですから、クリエィティブコモンズをもっと活用すべきだと個人的には思います。

なお、これはマンガやアニメに限った話ではないと思います。他の分野を含め、著作権管理について根本的に見直し考える時がきたのではないか、と個人的には思います。 

※ここでいうプロは、コンテンツ産業とは直接関わりのない個人や一般企業、組織、公共団体も含めます。もちろんコンテンツ産業企業はいうまでもありません。これらによるコンテンツ利用行為(しいて言えば、私的使用にあてはまらない行為)はプロの行為、と私は考えます。

本名をそのまま芸名にしている芸能人のその芸名を商標登録し商標権を保有している場合について

(一応、前回の続きです。)

 

 

「『本名』をそのまま芸名にしている芸能人のその芸名を、所属事務所が商標登録しその商標権を保有している場合」にフォーカスして書いてみようと思います。
なお、以下に書くことは、あくまで私の個人的考えですので、あしからず。



商標法上、その芸能人本人に許諾を得ていれば、その芸能人の本名=芸名を、事務所が商標登録出願をして商標権を得ることができる、ということになります。


しかし、そもそも芸能人が、本名=芸名について、「本当に」商標登録についての許諾を事務所に対してしていないのではないか?という疑問が、私にはあります。事務所との力関係といいますか、なかば事務所による強制とでもいいますか、無理矢理許諾させられた、あるいは許諾していなくても事実上の暗黙の了解として所属事務所側が勝手に商標登録したのではないか、なんて考えています。
とはいえ、なんにせよ、芸能人と事務所とがマネージメント契約をしている、その契約書をかわしていて、そして、その契約書の中に芸名の商標登録に関する記載があり、事務所との契約の段階で芸能人側が何も考えずに契約をしてしまった、としたら、これはその芸能人側にとってはかなりきびしい、不利な契約をかわしたことになるでしょう。しかし、契約をかわした以上、許諾をしたことになるでしょう。
だからこの場合、商標登録上事務所に落ち度はありません。よって商標権が事務所にあることはおかしいことではありません。
契約書をかわしていなかった場合ならば、両者間で口約束でもしていない限り、事務所への許諾はないと考えます。もっとも、この場合、商標法上事務所の出願そのものが認められないでしょうから、登録されることはないと考えます(登録されているとしたら、それは特許庁の落ち度、特許庁の商標法違反でしょう。ただし、特許庁は確認のしようがないとは思いますから、結局登録されてしまうでしょうけど。)。


話を戻します。事務所が所属芸能人の本名=芸名について商標権を持つことはできますし、それ自体はおかしいことでも間違ったことでもありません。

 

ただ、芸能人が独立した場合、元所属事務所が商標権を持つからと言って、その権利がどこまで及ぶのかについては、多少なりとも考える余地があります。ここでも、前回でもちらっとふれた、商標法第26条第1項の、第1号が問題となります。
商標法第26条第1項1号はこう書かれています。

商標法第26条第1項1号
商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
1.自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標

まず、この「自己の氏名」に対して、元所属事務所が効力をもつかどうか、の問題です。確かに、芸能人の許諾を得たならばその自己の氏名=本名を商標として出願し登録されても何の問題はありません。

しかし、芸能人が独立した場合は、その段階で芸能人の許諾は無くなったとして、その場合商標法第26条第1項1号に該当するとして、もはや当該商標権の効力はその芸能人には及ばないのではないか、と私は考えます。
次に、「普通に用いられる方法で表示する」をどう解釈するか、です。これは、他の条項にもある表現ですが、第26条第1項1号の場合ですと、「商標的使用方法であるかどうか」が問われます。


ということは、その芸能人のその芸名(本名又は著名な芸名)の使用行為が商標的使用でなければ、当然事務所が持つ商標権の効力はそれには及びません。「芸能人が芸名(本名又は著名な芸名)を使用しても『普通に用いられる方法で表示する』」限りは、事務所が持つ商標権の効力は及ばない、ということです。
「芸能人が芸名(本名又は著名な芸名)を使用しても『普通に用いられる方法で表示する』」ですが、例えば、芸能人が芸名(本名又は著名な芸名)を名乗ってTV番組に出演する場合は、これにあたると考えるべきと思います。これは「商標的使用に該当しない」と私は考えます。
逆に、例えば、芸名が◯◯◯◯である芸能人(◯◯◯◯は本名又は著名な芸名)が写真集をだす場合において「◯◯◯◯写真集××××××(◯◯◯◯は芸能人の本名又は著名な芸名、××××××は写真集のタイトル)」と芸能人の本名又は著名な芸名を冠する場合や、こういう感じで芸能人の本名又は著名な芸名を冠したグッズを販売するような場合は、事務所が持つ商標権の効力は及ぶ、と考えるべきと私は考えます。
つまり、芸能人が、元所属事務所が商標権をもつ、この芸能人の芸名(本名又は著名な芸名)を名乗ってTV番組、ドラマ、映画等に出演することは、その限りならば全く何の問題はない、商標権の侵害にはならない、全く問題ない、と私は考えます。
逆に、前述のような写真集やグッズなどの販売をする場合は、商標権侵害になる、と私は考えます。

 

 

なお、「芸名(本名又は著名な芸名)」と書いてますが、それは、第26条第1項1号の場合は、「本名」のみならず「著名な芸名」の場合でも、同じことが言える、と私は解釈しているからです。

 

じゃあ、「著名でない芸名」はどうなの、ということですが、残念ながら、商標法第26条第1項1号上、本名でない限り元所属事務所がもつ商標権は及んでしまう、と私は考えます。実際問題として、本名ではない著名でない芸名は、元所属事務所に権利行使されても仕方がない、程度のものでしかないと思います。

 

さらに余談ですが、芸能人の芸名(本名又は著名な芸名)の使用について、例え商標権を持っていても元所属事務所がその芸名(本名又は著名な芸名)の完全使用禁止を芸能人に求めることは、商標法以前に、憲法上の問題(極論を言えば憲法違反である。)とさえ私は考えています。

 

本名であれ、芸名であれ、人の名前を商標とすることは、それだけ非常に難しい問題を内在していること、だと私は考えます。

 

 


何度も書きますが、上記はあくまで私の個人的考えです。

芸能人の芸名の商標登録はできるか?

以下に書くことは、あくまで私の個人的考えです。また、ある意味極論とも思います。ま、大目にみてください(笑)。

 

 

 

芸能人の芸名の商標登録はできるでしょうか?

 

先に結論を書けば、芸能人(個人、またはグループ)の芸名を商標として出願すること、それ自体は可能ですし、審査に通れば特許庁にて登録されます。

 

でも、それは、「芸能人の芸名が「芸名」として登録されることではない。あくまで「商標」としての登録である。」と、私は考えます

付け加えれば、なんでも芸名が商標登録できるわけではありません商標登録できない芸名もあるでしょう。

また、登録できたとしても、その権利行使については、多少なりとも制約がある場合もあるでしょうその登録ですが、必ずしも当初の意図どおりの内容で登録されるとは限らないので、結果その権利範囲は最初の考えとは変わってしまったいうのも十分おこりえます。

 

 

そもそも、芸名と商標とは異なる概念です。ですから、芸名を商標登録できるのは、芸名と商標とのそれぞれの概念範囲が重なる部分に対してだけ、と考えるべきでしょう。よってあまり効果のない登録となる場合だってありえます。それでも、商標登録をしないよりはしておいた方がいいでしょう。でもあくまで万が一の保険程度に考えるべきです。なお、その商標登録が、将来のトラブルの火種にもなりえますから、御注意を。

 

商標登録出願をする際は、商標法制度を詳しく理解している特許事務所等に相談して、スキのないまたトラブルが発生しにくい形で商標登録する必要があります。

 

 

ちなみに、J-Platpatでいろいろ芸名を検索して調べてみると面白いです。

何でこのような指定商品・指定役務にしたのか疑問に思う、いや勉強になる商標登録も幾つかありました(笑)。

 

ちなみに、芸能人の登録商標の商標権者は、私が調べた限りでは、全てその所属事務所です。芸能人(個人、グループ)自身ではありません。

余計なことかもしれませんが、事務所と仲が悪くて将来独立を考えている芸能人ならば、不用意に所属事務所に自分の芸名の商標権を持たせない方がいいのではないかと思いました。実際には難しいでしょうけど(もっとも、商標権を元所属事務所がもっているとして、その元所属事務所が権利行使をしたところで、その商標=芸名が著名という場合に限りますが、その権利行使について、商標法第26条第1項1号が適用され、芸能人に対して効力は及ばない、と考えます。誰か裁判で元所属事務所とそのことを争う著名な芸名をもつ芸能人の方いらっしゃいませんでしょうか。判例を作っていただきたいものです。)。

 

 

 

くどいですが、上記はあくまで私の個人的考えです。

 

 

(一応、次回に続きます。)

書籍紹介その33 商標判例読解

判例を学ぼう。

判例から学ぼう。

 

 

私は、会社で商標管理の担当者になって以来、青木弁理士を商標における心の師として勝手に仰いでまして、このブログでも以前にそう書いたと思います。
その青木弁理士がいらっしゃるユアサハラ法律特許事務所が、以下の書籍を出版しました。

 

 

商標判例読解 (現代産業選書―知的財産実務シリーズ)

商標判例読解 (現代産業選書―知的財産実務シリーズ)

 



ユアサハラ法律特許事務所では、商標判例の勉強会を月1でしているそうです。その勉強会の成果がまさにあらわれている書籍だと思います。執筆、編集 に名を連ねていらっしゃる方々は、この勉強会の方々なのでしょう。いわばユアサハラオールスターズ(略してUAS)でしょうか(笑)。前述の青木弁理士の名もあります。


昔からの重要判例は基本として当然知っていないといけませんが、同時に最新の判例動向情報も知っていないといけないと思います。
この書籍は、ここ数年内の判例事例を扱っています。この書籍で扱われている、もっとも古い事例で平成24年5月判決、もっとも新しい事例で今年平成28年2月判決です。新しい裁判事例を知ることができるのはとても有難いです。

裁判は、当然ですが本来裁判当事者及び裁判関係者しか関わらないものです。また、例え同様の事例であっても、それぞれ異なる事件である以上、それらの裁判は当然別のものです。だから、同様な事例であっても、それぞれの裁判でそれぞれの判断がなされる、あるいはなされてきたわけです。
あくまで、過去の裁判判例は、将来の裁判において判断の「参考」にされる「だけ」の話、です。日本は判例法の国ではないのですから、その過去の判例を必ず踏襲しなければいけないわけではありません。とはいえ、過去の判例を援用できるので、それはつまり、かつての裁判の判例を踏まえ判断がなされる、ということを意味します。それが日本の裁判というものです。
ゆえに、判例を知ることは大事なことではないでしょうか。
裁判の結果だけでなく、なぜ裁判でそのように判事されたのかまでをしっかり身につけることが大事だと思います。


判例を知ることは、裁判での判断のためだけでなく、なにより日常の実務上においての判断の助けにもなります新しい裁判事例を知ることは、新しい判断材料を身につけること、です。普段の仕事において特に判断に迷う時の判断基準になります。裁判官、弁護士、弁理士、大学教授等の専門家だけでなく、企業の、例えば法務部や知財部等の人の仕事にも必ず役立ちます。

私に関して書けば、現在会社で出願している商標について、いずれこの書籍が、特に第1章のいくつかの事例が、判断材料として役立つかもしれない、そんな気がしています。既に権利を取得した商標についても、他から権利侵害されるようなことがおき、役に立つことがあるかもしれません。願わくば、そのようなことはおきて欲しくはありませんが。


この書籍は、①目次に、各判例の簡単な説明をのせ、その裁判の事件名を知らなくても、目次のその説明を読んで、求める判例が見つけられるようになっている点や、②各判例には、まず最初に「キーポイント」が書かれていて、その判例の読解ポイントがわかるようになっている点等、わかりやすくするための工夫がされているのがいいです。巻末に、裁判例索引だけでなく、キーワード索引もあれば、さらに素晴らしい書籍になったと思います。

取り上げられている裁判事例も興味深いものばかりです、個人的には、 「チュッパチャップス事件(平成24年2月地裁判決)」も取り上げて欲しかったです。あと、もう数ヶ月先の裁判判決であった「フランク三浦事件(平成28年4月12日高裁判決、現在最高裁上告中)」も取り上げて欲しかった。


ちなみに、この書籍は、実務だけではなく、知的財産管理技能士1級ブランド専門業務試験等の勉強にも役立つと思います。



さらに付け加えて。
私の希望としては、数年後に、ぜひ続編を出して欲しいです。その中で、「生活と科学社事件」(関連して、いささか古いですが「クルマの110番事件」や、「IKEA事件」の商標権侵害部分、などの事例にも触れてほしい)や、前の方で個人的要望を書いた「チュッパチャップス事件」や、(もし続編が出版されるならば、その頃にはすでに最高裁がひらかれ判決も確定しているでしょうから)「フランク三浦事件(高裁及び最高裁)」、などを取り上げて頂きたいと願っています。


あと、海外編もだしていただければもういうことありません。いやこれはさすがに負担が大きくてダメですよね(笑)。

登録商標の表記の際には®️を付しましょう

以前に、以下の ブログを書きました。

http://hidethecsipm.hateblo.jp/entry/2014/10/31/091737

この回のブログの中で、私は、要約すれば、登録商標を『商標として使用』していないのに、その表記に®️をつけるのはおかしい。」というようなことを書きました。さらに「®️をつけようが、ダイリューション(希釈化。別な言い方をすれば普通名称化。)がおきる時はおこる。」的なことも書きました。

その後、私は考えをあらためました。この回のブログに追記して簡単に考えをあらためた旨を書きましたが、今回ここで詳しく説明します。


私のあらためた考えを書きますと、「『登録商標の商標としての使用』でなくとも、登録商標を表記をする際は®️をつけるべきである。それは、『「商標としての使用」でない登録商標』の表記だとしてもそれが繰り返されれば、登録商標ダイリューションはおきるので、それを避けるためだからである。」「『登録商標の商標としての使用』でなくとも、表記した登録商標に®️をつけていれば、それはダイリューションを防ぐことになる。」
です。

誤解しないでいただきたいのは、商標としての使用と、®️を登録商標に付すこと自体とは、全く関係はないということです。
®️を付しても、商標としての使用では
ない場合はあります。ただ、それでも®️を付すことで、登録商標であることをアピールでき、登録商標が希釈化されず普通名称化するのをさけられる、ということです。

例えば、商標「AQUOS」。ご存知シャープの登録商標です。

これを、「うちの4KテレビはシャープのAQUOSです。」なんて私がブログで書いたとします。この表現は、単なる事実の紹介であり、「商標としての使用」ではありません。

そして、仮定として、4Kテレビにおいて、「AQUOS」が高い評価を得てたくさん売れ、そして沢山の人が世間話あるいはブログ等の中で「AQUOS」のことを言い又は書き(もちろんこれも「商標としての使用」ではありません。)、その結果として、「AQUOS」が4Kテレビの代名詞となり、4Kテレビを見ることを「AQUOSを見る」なんて表現するようにまでなり、普通名称化したとします。
これが「商標の普通名称化=希釈化(ダイリューション)」(のパターンの1つ)です。

これを防ぐ1つの方法が、「商標としての使用でなくとも、登録商標を表記する際には必ず®️を付す」ということなのです。「AQUOS®️を見る」という感じで。
商標としての使用でなくとも、登録商標の表記に®️をつけておけば、この表記は登録商標であることをあらわしていることになります。結果、普通名称化される= 希釈化される、ということにはならない、というわけです。

ダイリューションにはいろいろな種類があり、またダイリューションを防ぐには、®️をつけること以外に他にいろいろ手段がありますが、まずは登録商標には®️を付して使用することです。


実際、商標にうるさい企業は、自社の登録商標の表記にはかなり強く注意を払っていて、必ず®️を付して商標表記をしています。自社だけでなく、他社の表記にもそれを求めます。私が勤める会社でも、他社からその他社の商標に®️を付すように言われたことがあります。

ダイリューションの事例を1つ紹介します。
「ホッチキス(又はホチキス)」という言葉があります。
これは実は、もともと、明治時代にアメリカからホッチキス(又はホチキス)を輸入して販売していた伊藤喜商店(現イトーキ)がその当時登録した商標だそうです(この商標の登録は現在はありませんが、後述のとおり現在ではマックスがアルファベット「HOTCHKISS」を商標登録しています。)。ホッチキス(又はホチキス)はアメリカのメーカー名で、これを伊藤喜商店(現イトーキ)は商標登録したのだそうです。
本来ステープラ(※)が普通名称だそうですが、「ホッチキス(又はホチキス)」という言葉が世間に広まってしまい、これが普通名称化してしまい、商標としての機能、商標的価値は無くなってしまいました(なお、日本の商標法制度では、登録商標が普通名称化し商標的価値が無くなっても、それが理由でその商標の登録が取り消されることはありません。もっともその登録に基づく権利行使はもはやできません。また、前述のとおりイトーキの登録商標はすでにありません)。
もし、ホッチキス(又はホチキス)という言葉を使用し始めた最初から、必ずその登録商標に®️を付していたら、おそらくこのようなことは防げたかもしれません。明治時代だから、®️ではなく、「登録商標」ですね。
他にも、「エスカレーター」も同様だそうです。

こういう事例もあるので、だからこだわる企業はとことんこだわるのです。
商標法上、登録商標の使用の際には®️を必ず付す義務はありません。しかし、もしものため、私は自社登録商標には®️を付して使用することをお勧めします


※正確には、日本では正式な普通名称はないようで(ちなみに商標の登録における指定商品的には「紙綴機」という表現となります)、日本ではステープラはJIS規格上での表現とのことだそうです。なお、海外では、ペーパーファスナー、ステープラ等の呼び方が一般的なようです。前述の伊藤喜商店(現イトーキ)がアメリカから輸入した製品には、そのメーカー名であるHOTCHKISS(ホッチキス(又はホチキス))の他、商品の普通名称としてPAPER FASTNER(ペーパーファスナー)と書かれていたそうです。なお、当然のことながら、海外ではホッチキス(又はホチキス)は通じない表現です。
ちなみに、現在では、マックスがアルファベット商標「HOTCHKISS」を、紙綴機を指定商品として、商標登録しています。これはアルファベットだから登録できたのでしょうか?また、マックスは、カタカナ商標「ホッチキス」も登録してはいますが、その指定商品は紙綴機と全く違うものです。