知財管理技能検定1級ブランド専門業務試験合格への道かな?

知財管理技能検定1級ブランド専門業務試験に向けて諸々のこと、その他書籍やニュースなどの知財、その他の法律等に関して、思いついたら書きます

“既存の外付けキーボードの多くが抵触する特許”ですと?

正直「パテントトロール」的な香りがそこはかとなく臭ってきています(笑)。実際どうなのか私には全くわかりませんが。以下は、あくまで私の勝手な考えです。



そもそも、この特許の原出願は、「2005年4月28日」です。この頃って、iPadiPhone、パッドPCやスマホの類が、まだ発売されていなかったはずですし、外付けキーボードなんて発想はなかったと思います。
そもそも、デスクトップPCのキーボードなんて元々本体とは別ですし、ノートPCのキーボードが変えられたらなとは思ったことはありますが、わざわざ外付けで別のキーボードを使うことなどありません。
だから、今となっては、ニーズは、スマホとかパッドPCぐらいにしかないでしょう。これら以外で、わざわざマイキーボードを持ち歩き、デスクトップやノートで使用するという発想はまずないでしょう。

おそらく、原出願の当初は、パテントトロール的なことは、少しも考えていなかったと思います。最初はパテントトロール的ではなかった、といっていいのではないでしょうか。単にPCにおいて、別に使用するキーボードをオルタナティヴに選択できる、という発想だったと思います。そして付加価値的な機能をつけている、そういうものだったのではないでしょうか。

出願の後、拒絶通知を受けたり、その対応で意見書を提出したり分割出願にしたりして、ようやく昨年、「2014年4月16日」に登録となりました。
登録までに約9年かかったわけです。ちなみに、あと約11年で特許権は満了を迎えます(特許権の権利期間は、原則「(原)出願日から20年間」です。)。

この数年の間で、状況はいろいろ変わりました。だから、最初に考えていたこととは事情がかなり変わったと思います。

この特許権を取得したエィディシーテクノロジー社は、なんと、特許権取得後、「既存の外付けキーボードの多くはこの特許に抵触する。」というようなことを発表し、そしてライセンスについて言及しました。急にパテントトロール臭がしてきましたね(笑)。ともあれ、そういう考えに至ったに違いない、と私は思います。そしてその背景には、状況の変化が大きくかかわっていると思います。


さて、エィディシーのこの動きに対して、既存の外付けキーボード製造販売企業はどうすればいいでしょうか。以下の対応ができると思います。
①先使用権を主張する。エィディシーが特許出願する前から、同じ発明技術の実施あるいはその準備をしていたと立証できれば、先使用権が認めらる場合がある。この場合認められる範囲は限定されていても、ライセンスを得ずに今後も堂々と製造販売ができる。
②エィディシーにライセンス料を支払いライセンスを得て、その分余計なコストがかかるわけだが、今後も外付けキーボードを製造販売していく。
③自社の製品の技術は別のもので特許権に抵触しないと主張し、ライセンスを拒否して、裁判でエィディシーと争う。
特許権侵害かもしれないことを承知で、隠れて製品を製造販売する。

まあ、①は可能性としてかなり低いでしょう。2005年よりも前から、外付けキーボードの製造販売等実施をしている企業はおそらく存在しないと思います。もし、存在するとしても、それならばその証明を明確にできるかどうか、でしょうね。先使用権の立証はかなり困難のようですから。そしてこれは、こじれると裁判沙汰になります。
②と③ですが、このどちらかになると思います。自らがエィディシーとは違う技術を用いていると裁判で証明できる自信があれば③でしょうし、それが難しいなら②でしょう。
④は選択肢としてはまずあり得ないでしょう。リスクを負ってまでしますかね。私なら絶対しません。
そうなると無難に②でしょうか。あと、この際いっそのこと、外付けキーボードからは撤退する、という選択肢もありでしょう。

おそらく、エィディシーとしても、特許権侵害の主張については、それなりにちゃんと調査してからするでしょうね。もし裁判沙汰になり、そしてもし負けたら困るのはエィディシーも同じことですから。ただ特許権侵害を主張して、そして最悪裁判に訴えればいい、というのはあまりに単純です。現在の日本はアメリカ的訴訟社会に近づいてきてはいますが、それでもまだまだです。また、まだ日本では、仮に勝てる裁判かもしれないとしても、裁判をするのはやはりリスクと負担が大きいのではないでしょうか。私なら安直に裁判する気にはなれません。


そうそう、「補償金請求権」について話をしておきます。
実は、特許出願後、特許の登録「前」までならば、その出願された発明技術を他者が実施していても、実はそれは侵害にはなりません。特許が「登録」された段階で侵害になります。登録「前」ですから、当然出願特許はまだ登録されてませんし、最終的に登録されるかどうかはまだわかりません。登録されてはなく、権利が発生していないものに対して、侵害されていると認められるわけがありません。だから、登録「前」の他者の実施「自体」は侵害ではありません。
ですが、出願しても、登録前に他者に実施されるのは出願者側としては非常に困りものです。まだ権利が発生していない以上、やめてさせることはできません。そんな権利はありませんから。
登録されれば状況は一変します。登録され特許権が認められたならば、その段階で侵害を主張し差し止めることができます。そして、出願から登録になるまでの間に他者により実施されていた分については、その他者に対して「補償金」を請求することができます。
これが「補償金請求権」です。ちゃんと特許法制度は考えているのです。

この権利が認められるためには、いくつかの要件をクリアしなければなりません。その一つが「警告」です。まだ、特許の登録はされていなくても、例えば「貴社の製造販売して実施している製品は、弊社の現在「出願公開中」の特許発明技術に抵触します。現在まだ特許は登録されていませんが、特許権が認められたら、貴社が実施した分について補償金を請求します。」というような「警告」を特許の登録前にしておく必要があります。そうすれば、特許権登録後に、実施した他者に対し補償金を請求することができます。逆に言えば、この警告をしていなければ、特許が登録されたとしても補償金を請求することができません。


おそらく、エィディシーは警告はしていなかったと、私は思います。ちゃんと警告していれば、わざわざこのような発言はしないでしょうから。
だから、権利化前のことについては何もしないし、できないでしょう。そのかわり、権利化後のことは、しっかりアタックしてくるでしょう。



(一部情報によると、エィディシーテクノロジーは、これまでも、特許において同様なことをしていたようです。あら、困りものです。やはりパテントトロール?)