知財管理技能検定1級ブランド専門業務試験合格への道かな?

知財管理技能検定1級ブランド専門業務試験に向けて諸々のこと、その他書籍やニュースなどの知財、その他の法律等に関して、思いついたら書きます

ディンクスはなぜ「フランク三浦」を商標登録したのか ー そもそもパロディ商標は登録すべきなのか?

タイミングとしては古いですが、裁判で話題になった商標「フランク三浦」について書こうと思います。



(5/15、追記です。
タイトルで、「そもそもパロディ商標は登録すべきなのか?」と書きましたが、「は登録」でなく「を出願」の方が、私の意図にあっているかもしれません。出願することがなければ、登録されることはありえませんし。)



まず、私は、例え識別性があり混同がおきることがないとしても、そこに元ネタ商標へのフリーライドがある以上、パロディ商標は登録すべきではない、とする考えを持っています(パロディである限りはそこに何かしらのフリーライド性はあると考えています。)。かなり、異端な考えではあります(笑)。

今回の裁判については、人によって意見がわかれると思います。私は、今回の裁判の判決自体は理解できなくはないですし、むしろ当初は判決を肯定する立場でした。ですが、現在では前述のように考えるようになり、今回の判決を否定するようになりました。



パロディ及びそれをすること自体は、悪質でなくユーモアとして許容できる限りにおいては、認められるべきものであり、当然あっていいと思います。
しかし、そのパロディを「商標登録してその商標権を主張すること」、これは認めてしまっていいものなのか、と考えます。はっきり言って、私は「反対」です。


個人的にずっと気になっていることがあります。それは、「ディンクス(フランク三浦を販売している会社)はなぜ『フランク三浦』を商標登録したのか」ということです。
はたして、商標登録をする必要があったのでしょうか?
そもそもパロディ商標は登録すべきなのでしょうか?


商標登録しなければ、フランクミューラー側はおそらく何もしてこなかったのではないかと思います(したら大人気ありません。大人が小学生相手にマジの喧嘩をするようなものです。このあたりの商標権者(今回のケースで言えばフランクミューラーの立場)側の動きについては、いずれ別の機会で書きたいとは思います。)。ディンクス側が商標登録をしたからこそ、その登録を無効にするアクションをおこさざるを得なかったのではないでしょうか。そして、これまで実際には、フランクミューラー自身はその程度のアクションしかおこしていないのです。ディンクス側はやりすぎではないかと思います。


なお、ちなみに、仮にディンクスが商標登録をしていないとしても、(かなりの価格差があるものの)商品のデザイン自体は酷似しているので、不正競争防止法違反で何らかのアクションを起こしたかもしれない可能性はあったでしょう。もっとも、商品デザインの場合、つまり不正競争防止法第2条第1項3号の場合は時期的制限があるので、今としてはおそらく無理でしょう。ちょっと話がそれました。


閑話休題、そもそも、今回の裁判、実はフランクミューラー側が訴えたのでなく、商標「フランク三浦」の商標登録を無効にされたディンクス側がその無効を取り消すために訴えをおこしたのです。けっしてフランクミューラー側がディンクス側に対して裁判に訴えでたのではありません


で、あれこれ考え続けて、1つの結論に達しました。
ディンクスはなぜ商標登録をしたのか?それは、「『フランク三浦』というパロディ商品のギャグを他にとられたくなかったからではないか」という、いかにも大阪的(笑)(いや大阪の人に失礼ですね。すみません。)な理由からではないか、との結論にいたりました。言い換えれば「悪ノリで商標登録をしたのではないか」ということです(あるいは、おそらくそうではないとは思いますが、「フランクミューラーを貶める悪意を持って商標登録をしたか」です。でも、さすがにこれはないと思います)。

そもそも、おそらくディンクスはフランクミューラーにフリーライドしようだなんて考えてはいなかったと思います。あくまで、一種のジョーク程度にしか考えていなかったと思います。もしフリーライドしようと考えていたのならば、もう少しクオリティの高い(この「クオリティの高い」というのは、「商品の質が」という意味で、完全防水であるとか、傷がないとか、ということです)ちゃんとした(失礼)商品をつくると思いますし、また価格ももっと高く(数万円ぐらいは)していたと思います。少なくとも、数千円で販売することはしなかったと思います。
そうしなかったということは、あくまで、パロディ商品・ジョーク商品としての販売、というつもりだったのでしょう。だから、権利侵害をしようとか、偽物をつくるとか、偽物を販売するとか、そういう考えはおそらくなかったと思います。
ですが、パロディ商品ですから、パロディの元ネタを想起できる程度には似ていないとパロディにはなりません。ですので、似たような名前にして、商品デザインもそれなりに似たような感じ(個人的には酷似していると思います)にしたわけです。

そして、ディンクスは商標登録をしてしまったわけです。

はたしてこれはどうなのでしょうか。
あくまで個人的な考えですが、パロディを商標登録してはいけないと考えますし、商標登録をしようとする段階で、たとえそんなつもりはないとしても、もはやそれなりの悪意、具体的にはフリーライドしようとする意志さえある、とどうしても感じてしまいます。自分たちはあくまでジョークのつもりなのでしょう。でも、商標登録したわけです。この段階で、世間一般的には、悪意があると見做されフリーライドだといわれても、私は仕方がないと思います。故意とはいえませんが、重過失といってもいいのではないかと思います。

両者の価格は全然違うので、両者を絶対混同するようなことはない、という意見があります。確かに、間違って購入することはないでしょうし、市場的には棲みわけができていると私も思います。それでも、フランク三浦がフランクミューラーを利用していることに変わりはありません(そうでなければ、フランク三浦など本来見向きもされない商品です。)。それは、つまりフランク三浦がフランクミューラーにフリーライドしていることを意味している、と思います。

先日行われた青木弁理士のセミナーにて、確か青木弁理士は、「パロディ商標の登録を1つ認めると、二番煎じ、三番煎じがでてきて、とんでもないことになる。」とおっしゃられていたと記憶しています。私もそうだと思います。
また、今回の件は立派に商標法第4条第1項7号違反といっていいのではないか、とも私は思います。少なくとも、商標登録という、公的かつ強力な権利化行為には、パロディにはふさわしくはなく、登録を認めるべきではない、と私は思います。


フランクミューラーとしては、おそらく、フランク三浦が商標登録されている以上、これを見過ごすことはできなかったのでしょう。だから、特許庁に無効審判を請求したのだと思います。結果、特許庁は商標「フランク三浦」の登録を取り消す審判をくだしました。このあたりの特許庁の判断は至極当然だと思います。
ディンクスとしては、おそらくまさかフランクミューラーが無効審判を請求するとは思わなかったのでしょう(ディンクスとしてはジョークでやっているのでしょうから。)し、その商標登録が無効となるとも思わなかったでしょう。それで、売られた喧嘩をつい買ってしまってディンクスは裁判に訴えでたのではないか、と思います。先に喧嘩を売ったのはむしろディンクスの方だと私は思いますが。
私は、ディンクス側は裁判に訴えるべきだったか、という疑問をもっています。それ以前に、そもそも商標登録するべきだったか、疑問に思っています。
ディンクス側の商標登録行為、及びその商標登録無効に対する裁判に訴えた行為は、ある意味仁義と礼儀を欠く行為だと私は思いますし、パロディをする側としてあまりに矜持がなさすぎる行為だと私は思います


なお、フランクミューラー側は、登録商標の無効審判請求はしましたが、それ以上のことは、まだこれまで一度もしていません。ディンクス側とは違い、大人の対応をこれまで通してきた、と私は思います。無効審判請求についてだけは、さすがにもう許すことができないギリギリのところまできてしまったため、フランクミューラー側はアクションを起こしたのだと思います。


今回の裁判の結果、フランクミューラー側は最高裁に上告するか、あるいは今度はもっと違う形で、例えば不正競争防止法違反で、ディンクス側を相手どって裁判をおこすのではないか(もっとも不正競争防止法第2条第1項3号は時期的にだめかもしれません。)、と私は思います。
ここまできたら、フランクミューラー側は、本気になってとことんやりあうと思います。そうなると、本当にやばくなるのはどちらか、これ以上は書かなくても、おわかりになると思います。



ちなみに、今回の「フランク三浦」事件で、私は「面白い恋人たち」事件を思い出しました。
こちらは商標登録にはならなかったわけですが。その点を除けば、似ている点は少なくないと思います。
ただ、今回は違って外国企業の話ですから、おそらく「面白い恋人たち」事件のように和解で決着なんてならないでしょう。



次回も、このテーマの続きを書きたいと思います。