知財管理技能検定1級ブランド専門業務試験合格への道かな?

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第1回知的財産管理技能検定1級ブランド分野学科試験31問目再説明

というわけで、前回予告しましたとおり、第1回知的財産管理技能検定1級ブランド分野学科試験31問目の再説明をしたいと思います。


まず、この31問目は、「問題文も各選択肢も、全て読み、ちゃんと内容を理解した上で、いろいろ考え解答しなければならない」、という種類の問題です。
単純に知っているか知らないか(実務経験を問われている?)、という種類の問題もありますが、これは違います。
このあたりの見極めはとても重要です。この問題タイプを見極め、全体的な時間の配分をうまく行うことはとても大事です。時間をかけるべきところはかけ、かけないところはかけずに解答しなければならない、ということです。


で、31問目の問題文において大事なポイントは、「関連する裁判例を考慮して」の部分です。つまり、「裁判例を知っていて、それを思いだすことができ、それを踏まえて考えることができなければ、この設問は解くことができない」、ということです。つまり、ただ法条項文、制度内容を理解しているだけでは太刀打ちできない、ということです。
そういう意味で、31問目は、まさに「1級」の問題、ではないでしょうか


さらに付け加えると、以前のブログでも書きましたが、31問目は日本における事例の問題である、ということです。
問題文には、「中国から商品を輸入して販売しているX社」と書いてあります。重要なのは「商品を輸入して(日本国内で)販売している」であり、ここから「この設問は日本における事例の問題」ということがわかります。輸入元の国が「中国」だろうが他の国だろうが、この設問においては、これは全く関係ありません。「中国」という言葉に惑わされてはいけません。


では、各選択肢を見ていきましょう。

まず、「ざっと」全選択肢に目を通します。以前にも少し書いたと思いますが、この段階で「31問目は、『不正競争防止法』、そして『意匠法』『商標法』、これらの法制度における裁判例の問題」であると気づくと思います。だから、不正競争防止法、意匠法、及び商標法、これらの裁判例をどれだけ知っているかは、とても重要なポイントです。もちろん、不正競争防止法、意匠法、及び商標法、これらの法制度自体をまずちゃんと理解した上での話です。そうでなければ、裁判例の理解などできません。
で、そうすると、選択肢ウと選択肢エはすぐに、不適切であるとわかります。もしそう考えられないのでしたら、不正競争防止法、意匠法、及び商標法、これらの勉強をもう一度やり直した方がいいのでは、と私は思います。
ちなみに、この問題を解くのに、私がここまでかけた時間は、1分弱です。ここまではそんなに時間をかけるべきところではありません。

で、こうなると、もはや選択肢アと選択肢イの二者択一です。そこでいよいよ、それぞれの選択肢を詳細に読んでいきます。こここそ時間をかける部分です。
でなんと、「どちらも適切じゃないか」と私は考えてしまいました。より詳しく分析する必要がありますね。
選択肢アは、いささか長い文でありますが、書いてあることは、ダイリューションに関することであり、またある種のフリーライドに関することです。そして、私は、この内容は正しいかなと思いました(ちなみに、選択肢イ、ウ、エも、ある種のフリーライドについて書かれた選択肢といえると思いますし、ウについてはポリューションについてとも言えると思います。)。
そして、選択肢イは、いわゆるジェネリック家具、リプロダクト製品の説明、といえます。もしこの選択肢イが不適切なら、ジェネリック家具、リプロダクト製品は成立しなくなります。意匠法、不正競争防止法、両方において、別に間違ったことは書かれていないだろう、だからよってこれも正しいかなと思いました。
はい「どちらも適切」と思ってしまいました(笑)。あらら、どうしましょう?

そこで、問題文に書いてあったことにふり返ります。「過去の裁判例」を思いだしていくのです。
選択肢アは、例えば「ギブソンギター事件(※1)」をふまえると、選択肢アの文内容はやはり適切だと言える、と私は考えました。
選択肢イは、レアなケースの裁判例といえますが「Yチェア立体商標事件(※2)」を思いだせばいいと思います。選択肢イはイスについて書かれていて、まさにYチェア事件的内容です。この事件は、意匠権が切れても立体商標として登録できれば商標権で商品の形態を守ることができることになる、というような内容です(ちなみに、この事件においては、商標登録ができるまでは、不正競争防止法等を根拠に警告等をしていたそうです)。ですので選択肢イの文内容が必ずしも適切ではない場合も判例上ある、と私は考えました。


よって、31問目は、書かれた内容が適切である選択肢アが正解、と私は考えました。実際、模範解答もアが正解となっています。


ちなみに、ここまで解答にかかった全時間はトータル3分強です(今回のセミナーでは、考える時間はほとんどなく、またYチェア立体商標事件を思いだせず、ついあせって間違えてしまいました。)。なお、この時間には、マークシートをぬりつぶす時間を含めていません。
先にも書きましたとおり、設問によっては、知識問題のような30秒弱で解答できるものもあります。逆に時間をかけて考えないと解けない思考力を問われる問題もあります。そのあたりの、見極めと時間的メリハリの付け方は、非常に大事だと思います。
もちろんマークシートをぬりつぶす時間も考慮しておいてください。マークシートをぬりつぶす時間は1問あたり10秒くらいだと思いますが、それが全45問となると、マークシートをぬりつぶす時間は、7分半ほどもかかるわけです。7分半、結構長い時間です。1級試験でも、簡単な問題なら5問近くは解けるかも知れませんし。


しかし、Yチェア立体商標事件は、確か2011年に裁判が確定したはず。そんな最近の裁判例も知っていないと解答が導けないとは、流石1級の問題、ですね。


※1   ギブソンギター事件
ギブソンというギターメーカーには、昔からレスポールというエレキギター製品が存在する。これがエレキギターのスタンダードとなったため、これと類似する形態の、いわゆるレスポールタイプと呼ばれるギターがいろいろな他社により作られてしまった。
そして日本のある企業も、レスポールそっくりの形態のエレキギターを製造、販売していた。ギブソンは、その企業に対し、不正競争防止法第2条1項1号違反として、差止請求、損害賠償請求の裁判をおこした。
しかし、この企業も含めいろいろな他社がレスポールタイプのギターの製造、販売を行っていた。このいわゆるダイリューション(希釈化)行為に対して、ギブソンは何も対処してこなかったと判断されたため、現在ではもはやギブソン側の被侵害の主張は認めることはできない、とされた裁判事件。

※2   Yチェア立体商標事件
カール・ハンセン&サン ジャパンというデンマークのメーカーの日本法人は、Yチェアという独特のデザインのイスを日本で販売していた。
そのYチェアの意匠権が切れた後、Yチェアに類似したいわゆるジェネリック家具がたくさん作られ販売されてしまい、困ったカール・ハンセン&サン ジャパンは、その対策のために、Yチェアを立体商標として出願申請した。
だが、特許庁に拒絶査定され、その後おこした審判においてもその拒絶査定を覆すことはできなかった。そこで最終的に拒絶査定審決取消訴訟をおこし、そしてそれに勝訴した。
結果、カール・ハンセン&サン ジャパンは、Yチェアの立体商標としての登録が認められた、という事件。


このYチェア立体商標事件、これだけ別に書いてみたくなりました(笑)。次回、この事件について、より詳しく書こうと思います。