知財管理技能検定1級ブランド専門業務試験合格への道かな?

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本名をそのまま芸名にしている芸能人のその芸名を商標登録し商標権を保有している場合について

(一応、前回の続きです。)

 

 

「『本名』をそのまま芸名にしている芸能人のその芸名を、所属事務所が商標登録しその商標権を保有している場合」にフォーカスして書いてみようと思います。
なお、以下に書くことは、あくまで私の個人的考えですので、あしからず。



商標法上、その芸能人本人に許諾を得ていれば、その芸能人の本名=芸名を、事務所が商標登録出願をして商標権を得ることができる、ということになります。


しかし、そもそも芸能人が、本名=芸名について、「本当に」商標登録についての許諾を事務所に対してしていないのではないか?という疑問が、私にはあります。事務所との力関係といいますか、なかば事務所による強制とでもいいますか、無理矢理許諾させられた、あるいは許諾していなくても事実上の暗黙の了解として所属事務所側が勝手に商標登録したのではないか、なんて考えています。
とはいえ、なんにせよ、芸能人と事務所とがマネージメント契約をしている、その契約書をかわしていて、そして、その契約書の中に芸名の商標登録に関する記載があり、事務所との契約の段階で芸能人側が何も考えずに契約をしてしまった、としたら、これはその芸能人側にとってはかなりきびしい、不利な契約をかわしたことになるでしょう。しかし、契約をかわした以上、許諾をしたことになるでしょう。
だからこの場合、商標登録上事務所に落ち度はありません。よって商標権が事務所にあることはおかしいことではありません。
契約書をかわしていなかった場合ならば、両者間で口約束でもしていない限り、事務所への許諾はないと考えます。もっとも、この場合、商標法上事務所の出願そのものが認められないでしょうから、登録されることはないと考えます(登録されているとしたら、それは特許庁の落ち度、特許庁の商標法違反でしょう。ただし、特許庁は確認のしようがないとは思いますから、結局登録されてしまうでしょうけど。)。


話を戻します。事務所が所属芸能人の本名=芸名について商標権を持つことはできますし、それ自体はおかしいことでも間違ったことでもありません。

 

ただ、芸能人が独立した場合、元所属事務所が商標権を持つからと言って、その権利がどこまで及ぶのかについては、多少なりとも考える余地があります。ここでも、前回でもちらっとふれた、商標法第26条第1項の、第1号が問題となります。
商標法第26条第1項1号はこう書かれています。

商標法第26条第1項1号
商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
1.自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標

まず、この「自己の氏名」に対して、元所属事務所が効力をもつかどうか、の問題です。確かに、芸能人の許諾を得たならばその自己の氏名=本名を商標として出願し登録されても何の問題はありません。

しかし、芸能人が独立した場合は、その段階で芸能人の許諾は無くなったとして、その場合商標法第26条第1項1号に該当するとして、もはや当該商標権の効力はその芸能人には及ばないのではないか、と私は考えます。
次に、「普通に用いられる方法で表示する」をどう解釈するか、です。これは、他の条項にもある表現ですが、第26条第1項1号の場合ですと、「商標的使用方法であるかどうか」が問われます。


ということは、その芸能人のその芸名(本名又は著名な芸名)の使用行為が商標的使用でなければ、当然事務所が持つ商標権の効力はそれには及びません。「芸能人が芸名(本名又は著名な芸名)を使用しても『普通に用いられる方法で表示する』」限りは、事務所が持つ商標権の効力は及ばない、ということです。
「芸能人が芸名(本名又は著名な芸名)を使用しても『普通に用いられる方法で表示する』」ですが、例えば、芸能人が芸名(本名又は著名な芸名)を名乗ってTV番組に出演する場合は、これにあたると考えるべきと思います。これは「商標的使用に該当しない」と私は考えます。
逆に、例えば、芸名が◯◯◯◯である芸能人(◯◯◯◯は本名又は著名な芸名)が写真集をだす場合において「◯◯◯◯写真集××××××(◯◯◯◯は芸能人の本名又は著名な芸名、××××××は写真集のタイトル)」と芸能人の本名又は著名な芸名を冠する場合や、こういう感じで芸能人の本名又は著名な芸名を冠したグッズを販売するような場合は、事務所が持つ商標権の効力は及ぶ、と考えるべきと私は考えます。
つまり、芸能人が、元所属事務所が商標権をもつ、この芸能人の芸名(本名又は著名な芸名)を名乗ってTV番組、ドラマ、映画等に出演することは、その限りならば全く何の問題はない、商標権の侵害にはならない、全く問題ない、と私は考えます。
逆に、前述のような写真集やグッズなどの販売をする場合は、商標権侵害になる、と私は考えます。

 

 

なお、「芸名(本名又は著名な芸名)」と書いてますが、それは、第26条第1項1号の場合は、「本名」のみならず「著名な芸名」の場合でも、同じことが言える、と私は解釈しているからです。

 

じゃあ、「著名でない芸名」はどうなの、ということですが、残念ながら、商標法第26条第1項1号上、本名でない限り元所属事務所がもつ商標権は及んでしまう、と私は考えます。実際問題として、本名ではない著名でない芸名は、元所属事務所に権利行使されても仕方がない、程度のものでしかないと思います。

 

さらに余談ですが、芸能人の芸名(本名又は著名な芸名)の使用について、例え商標権を持っていても元所属事務所がその芸名(本名又は著名な芸名)の完全使用禁止を芸能人に求めることは、商標法以前に、憲法上の問題(極論を言えば憲法違反である。)とさえ私は考えています。

 

本名であれ、芸名であれ、人の名前を商標とすることは、それだけ非常に難しい問題を内在していること、だと私は考えます。

 

 


何度も書きますが、上記はあくまで私の個人的考えです。