知財管理技能検定1級ブランド専門業務試験合格への道かな?

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知的財産権の「使用」

そういえば、昨年2014年の暮れに、このブログにて、「利用」と「使用」の違いについてあらためて書く、なんて書いた気が(笑)。
さらにさかのぼれば、昨年の夏に一度、このブログにて、『知的財産の「使用」と「利用」』というタイトルで書いています。

その後いろいろな知識を得て、私自身も考えが少し変わったので、今回、タイトルを『知的財産権の「使用」』として、あらためて書くことにしました。



知的財産権の「使用」』と一概にいっても、その「使用」は特許と商標と著作権では微妙に異なり違うものとなります(以前、私は同じように考えていたようです。すみません、認識不足でした。)

ですので、例えば、もし契約書で『知的財産権の「使用」』について条項に書くならば、少なくとも著作権については別の条項をたてて、また「使用」と「利用」を明確にわけて定義して書いた方がいいのでは、とふと思いました。

実際に契約書上そうするかどうかはともかくとしても、この違いを知っておいて損はないと思いますので、自分なりにまとめてみました。



まず、特許。
実は特許の「使用」について法律上明確な定義はありません。特許法第2条第3項に特許の「実施」については定義があります。その中に「使用」という言葉がありますが、「使用」の定義自体はされていません。
となると、まず「使用」は、特許法条項文から、その定義こそはされてはいませんが、「実施」の一様態とはいえます。そして、実際には、両者はほぼ同じ意味で使われている、ように思います。
ただ「使用」という言葉は、定義されていないがゆえに、いろいろ意味が混ざって使われていると思います。状況により、考えを変える必要があると思います。

まず、私は、「使用」は、単に、特許発明技術あるいはそれを用いたものを、その字のごとくただ「使用すること」を意味すると考えます。それ以上でもそれ以下でもないとしています。
そして、「実施」は、「使用」も含めた、特許発明技術を実際に用いて、その特許発明技術の製品を製造販売したり、ビジネスモデルにその特許発明技術を用いたりすることです。商業的、産業的に用いる、といいますか。

特許法上、「実施」については、特許権者の許諾を得ずに行えば、特許権の侵害となります。
「使用」は、私的な個人的な「使用」と、企業等の事業における「使用」があり、この2つは、わけて考える必要があるかと思います。
後者は、「実施」の一様態といえますが、前者はそういえません。特許法上の「使用」という言葉は、おそらく後者の方の意味で使われているといえるでしょう。後者の「使用」は、特許権者の許諾を得ずに行えば、特許権の侵害となります。
また前者の「使用」については、「用尽理論」の考えがあります。特許発明技術を用いて作られた製品が、適法に譲渡されあるいは市場にでて販売され購入され、使用されるとして、譲渡・販売購入の段階で特許権はすでに「用い尽くされた」ものとなり、その後の使用においては特許権者の権利はもはや及ばない、という考えです。
例えば、現時点で特許権が有効な特許発明技術を用いた製品があるとします。製品によっては、特許権者が異なる複数の特許発明技術を用いたものもあるかもしれません。製品を買っても、製品に用いられた特許発明技術の使用許諾をいちいち特許権者から得ないと使用できないとなると、これは大変で面倒です。だから、適法に購入された、特許発明技術を用いた製品は、用尽理論の考えにより、特許権者の許諾を得なくても使用できるのです。
個人による私的な「使用」はともかく、企業等による「使用」では、この用尽理論により許諾が不用な場合と、許諾が必要な場合とがあります。実際の状況から判断しなければならないので、いささかわかりにくいです。企業等の事業における「使用」では、「用尽理論」があてはまる場合あてはまらない場合とありますので、御注意ください。

(先「使用」権は、なぜ先「実施」権と言われないか、なぜ先「使用」による通常「実施」権なのか、を考えてみてください。なんとなく、「使用」と「実施」についてわかってくるのでは?ちなみに、以前書いたブログには、先「利用」権なんて書いていたようです。恥ずかしい。)

なお、特許製品の中古品販売については、一度譲渡され、あるいは市場にでて売買され、まして使用された後では、もはや特許権は及ばないと考えられていますが、一方で特許製品の中古品を、加工、改造、機能付加等をして、実質的に新製品にリビルドしてこれを市場にだした場合は、これを特許権侵害とする判例があります(例えばインクタンク事件高裁判決を御参照ください。)。



次に、商標。
商標では、商標法第2条にて「使用」という言葉が使われていて、特に第3項にて、「商標の使用」の行為内容がどういうものかを、列挙の形で規定されています。抽象的な商標の「使用」概念そのものは商標法上定義されていません。抽象的な「使用」概念の定義を求めるならば、列挙された内容から、抽象して導きだすしかありません。
また、商標では、特許のような「実施」の概念はありません(商標では、「使用」と「実施」とをあえてわける必要はありません)し、著作権のような「利用」との言葉の使いわけのようなこともありません(商標では、著作権のような「使用」と「利用」との違いはありません。)。
これらのことから考えると、商標では、商標法第2条、特に第3項にあげられた商標の使用行為に該当するかしないか、これを考えることが、基本で大事といえます。

なお、「中古品」について商標の場合ですが、中古品販売で「中古」「中古品」等そうである旨をはっきり示しているならば、商標権の侵害にはならないとされています。私の知る限り下級審の裁判事例しかないですが、「中古品」と明示されているので、「中古品」を売った者がその商品の真の「出所」であると判断されることはなく、よって「出所混同」はおきないので、商標権侵害は認められない、とされました(逆に言えば、「出所混同」がおき「出所表示機能」が害される場合ならば、商標権侵害が認められる場合もあり得る、ということですね。)。



次に、著作権
以前にも書きましたが、著作権法上、「使用」という言葉と、「利用」という言葉は、明確な違いがあり、はっきり使いわけられているようです。(※1)

「使用」は、その言葉どおりの使用です。別な言葉で言えば「著作物の単なる享受」です。著作者、著作権者の許諾はいりませんが、ただ、これは『「私的な」使用』です。『「企業等組織内で」使用』する場合はだめです。これは「利用」になります。

例えば、私的に個人的にCDを買ったとします。このCDを聴くために、著作者、著作権者から許諾を得る必要はありません。また、私的に個人的に書籍を買ったとします。この書籍を読むために、著作者、著作権者から許諾を得る必要はありません。このような、私的個人的に著作物を聴いたり読んだりする行為は「使用」となります。
また、書籍の1、2ページを、「私的に個人的に」使うためにコピーする行為、これも「使用」となり、著作者、著作権者の許諾はいりません。

では「利用」とは何でしょうか?端的に言ってしまうと、「許諾を得ないですると、著作権侵害になる著作物の活用行為」です。著作権法では、複製権や公衆送信権など、いろいろと権利が規定されていますが、これらの権利を侵害してしまう活用行為です。
例えば、他人の著作権物を使って利益を得る行為などです。これは著作者、著作権者の許諾を得る必要があります。勝手にCDを複製して、無償有償問わず他人に譲渡する行為は違法の「利用」行為です。
あるいは、買ったCDを店内BGMとして曲をかけている場合も著作物の「利用」行為であり、許諾を得ず勝手にすることは、上演・演奏権の侵害行為です(ちなみに有線放送にはいっていれば、買ったCDを店内でかけても著作権上問題がなくなくなる、と昔聞いたことがあります。本当かどうか知りませんが。)。
また、社内の会議等で、著作者、著作権者の許諾を得ずに、書籍の1、2ページをコピーして、資料として配布する行為なども、実は違法の「利用」行為です。確か複製権の侵害になるはずだと記憶しています。

許諾を得て「利用」するライセンス行為ですが、ライセンスで注意すべきは、ソフトウェアの場合についてです。
ソフトウェアのライセンス契約の場合、『「使用」許諾』であり、『「利用」許諾』ではありません。それは、「あるブログでの弁護士の説明(※2)」によれば、ソフトウェアの場合、ライセンス契約の慣習上そうなっているからだそうです。複製権、公衆送信権等、著作権法上の権利がライセンスされるわけではないからで、『「利用」許諾』ではなく『「使用」許諾』となるのだそうです。
本来なら、著作権は『「利用」許諾』なので、著作物の『「使用」許諾』ライセンス契約などないわけですが、ソフトウェアは、勝手な複製や公衆送信などの違法行為がされやすいから、『「使用」許諾』契約により、侵害行為がおこらないよう予防しているからだそうです。そのブログでの言葉を借りれば、「釘をさしている」そうです。


※1 私は、かつて、著作権においては、「使用」と「利用」とは、厳密に使いわけられていると教わったのですが、はっしーさんという方のブログ「企業法務マンサバイバル」の、タイトル『著作権法における「利用」と「使用」の使い分け』によりますと、「利用」と「使用」についてはいろいろな考えがあるようです。詳しくはこちらを御参照ください。
※2 木村耕太郎弁護士のアメーバブログ知財弁護士の本棚」
タイトル『著作権の「使用」と「利用」』より