書籍紹介その22 農林水産物・飲食品の地理的表示
先日数回にわたり書きました「地理的表示」。
「地理的表示」についてインターネットで検索すると、いろいろな資料を見ることができます(特に農林水産省の資料は、学習資料としても役立つと思います。また、これは知的財産管理技能検定の出題元ネタになるのではないか、とも思っています)。
で、検索し続けていたら、このような書籍を見つけました。おそらく、現時点で唯一の、今回の日本の地理的表示保護制度についての解説もある、歴史的、世界的なバックグラウンドについても書かれている、「地理的表示」の書籍ではないか、と思います。
農林水産物・飲食品の地理的表示: 地域の産物の価値を高める制度利用の手引
- 作者: 高橋梯二
- 出版社/メーカー: 農山漁村文化協会
- 発売日: 2015/03/23
- メディア: 単行本
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この書籍で、日本の地理的表示について説明をしているのは第7章から第9章で、今回始まった日本の地理的表示保護制度の制度の説明については、第7章でされています。ちなみに、すでにこれまでに日本で行われていたワイン等の地理的表示制度(これは別管轄のようです。確か国税庁。)については、第9章に書かれています(地理的表示制度は、以前から形は違えど日本であったのですね。そうそう、その国税庁によって「日本ワイン」「日本酒」の表示のためのルールが最近あらためて規定されましたね。日本国内でとれた材料、葡萄、米で、日本国内でつくられた酒でないと、この表示は認められないらしいです。米国産日本酒もありますからね。このあたりを、はっきり線引きしたのでしょう。これももしかしたら地理的表示保護制度の影響かもしれませんね。)。
第1章から第6章までは、地理的表示の概念の説明や、地理的表示の世界的、歴史的経緯の説明、TRIPS協定の話、海外諸国諸地域における地理的表示の保護についての解説、等が書かれています。地理的表示がグローバルな話であることが理解できます。
つまり、この書籍は、日本の地理的表示保護制度の解説も書かれていますが、地理的表示について海外の状況や歴史なども含め総合的に説明をしてくれている、「地理的表示」の啓蒙的書籍といえるかと思います。今回の制度を勉強するための書籍というよりは、「『地理的表示』とはなんぞや」という根本を知ることができる、そんな書籍だと思います。
この書籍を読んで素晴らしいと思ったことは、地理的表示の制度の問題点、批判点もちゃんと明記されていることです。この点は特に国際間での貿易においては重要な論点です。この書籍でも第6章で扱っています。TPP問題で揺れている現在だからこそちゃんと考えるべきことだと思います。メリットデメリット、両方踏まえた上で「地理的表示」についてしっかり考えよう、と著者は訴えているのではないでしょうか。そしてこの書籍は、その一助になるのではないでしょうか。
最初は、知的財産の一つとして読み始めましたが、「地理的表示」は、文化的な観点や社会的な観点、また日本だけではないグローバルな規模の観点、これらの複合的観点で考えなければならない、知財だけにとどまらない非常に奥深いものである、と感じました。