知財管理技能検定1級ブランド専門業務試験合格への道かな?

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日本の著作権をアメリカの制度で著作権登録する必要性とは?

ビヨンセが、バックダンサーの創作した曲を盗作したと、そのバックダンサーに訴えられたらしいです。
アメリカではよくある(?)ことですので、別にこのこと自体には私は全く興味はない(笑)のですが、ただ一つ、ビヨンセ側は「著作権登録していないじゃないか(だから裁判おこせないだろう?)。」と主張したらしく、これを私は「なるほど、アメリカらしい。」と思いました。

アメリカでは、現在では「著作権登録」は著作権の「保護要件」ではありません。しかし「訴訟要件」ですので、アメリカ国内での著作物において、その著作権が侵害されたと裁判を起こすためには、その著作物の著作者は著作権登録しておく必要があり、ビヨンセ側はこのことをいっているわけなのです。なお、この「訴訟要件」は、アメリカ国内の著作物の著作権について必要ですので、アメリカ国外の著作物の著作権については、必ずしも登録していなくても、裁判をおこすことはできるようです(でないと国際的な問題になります。)が、アメリカでの市場にて著作物を販売するなど、著作権を有効利用するのであるなら、登録しておくべきでしょう。アメリカで、なら。


とはいえ。
インターネットで検索すると、アメリカの著作権登録のサービスを売りこんでいるサイトを見かけます。
アメリカの著作権登録を売りこんでいるサイトは、日本国内での著作権裁判である「ジョイサウンド仮処分事件」にて、(第二審の高裁で)アメリカでの著作権登録を根拠に「日本でも」その著作権が認められた、と主張しています。
確かに事実はそうです。ただ、この事件での著作物は確かアメリカの著作物である音楽であり、だからアメリカでの著作権登録がされているのは当然といえば当然であり、だからこそ「日本の」裁判とはいえ、そのことを主張し、結果アメリカでの著作権登録を根拠にその著作権が認められた、ということではないでしょうか。
これはむしろ、アメリカの著作物の著作権の証明ですから、当然のことだと私は考えますし、条約に従い、アメリカの著作物でも日本で著作権保護されるからに他ならない、と私は考えます(ちなみに、どうやら第一審の地裁においては、アメリカでの著作権登録の主張はしていないようです。)。

このたった一度の裁判だけで「アメリカでの著作権登録は強力で、日本の裁判でも有効だ」と断言しているサイトが、アメリカでの著作権登録のサービスを日本でしか著作権が必要がない方々にも売り込むのはなんだかな、と思います(他の日本の著作物での同様な日本国内裁判事例が数あるならば、また話は別であり、それだけの価値はある、ということになるでしょう。ただ、私はこの事件以外は知りませんし、また調べたところ見つかりませんでした。)。
そもそもそこまでする必要性はあるのでしょうか?私は違和感感じまくりで、いかがわしささえ感じてしまいます。登録自体がいかがわしいわけではありません。「日本での」著作物でのことで、あえて「アメリカでの」著作権登録をすすめることにいかがわしさを感じるのです。
日本でも著作権の登録制度はあります。日本では、保護要件でないのは当然のこと、訴訟要件でもなく、またその登録内容も限られています。この点で、アメリカの著作権登録制度よりは弱いのかもしれません。必ずしも強力絶対的なものとはいえません。アメリカの著作権登録制度は、著作物を創作したその事実そのものを登録することができ、また未公開著作物も登録することができます。そして、前述のとおりアメリカでの裁判の訴訟要件(日本では不要です)です。これらの点で、アメリカの著作権登録制度は確かに日本のものよりも強力だとは思います。
しかし、それでも日本の著作権登録制度は、裁判での著作権存在の証明手段としては、日本においては当然有効でしょう。
ジョイサウンド仮処分事件」と同じ様に、今後、日本の著作物の著作権の根拠として、アメリカの著作権登録が日本国内の裁判で認められるかどうかが必ずしもわからない、その意味で不確実であるアメリカでの著作権登録をあえてする必要があるのかどうか、私には全くわかりませんし理解できません。
実際の実務でも、「うちの会社は、アメリカで著作権登録をしているから、大丈夫」などとは聞いたことありません(私が聞いたことがないだけかもしれませんが。)。

ちなみに、逆に、著作権登録を積極的にしておくのが良いらしいのは、中国進出の場合だそうです。中国での商標権取得までのつなぎや、万が一のためのなんらかの権利保護の補助手段として、商品パッケージや企業・商品ロゴを著作権登録(中国にも著作権登録制度はあります)している日本企業が少なからずあります。著作権登録は無審査なのでしやすく、著作物といえそうにないものでも登録できます。ただ、著作物性があるかどうかはまた別問題です。しかし、それでもとりあえず登録できるようです。よって、中国で実際の裁判になった場合に、その裁判で著作物と認められない可能性が多分にあります。繰り返しますが、著作権登録していることと、その登録著作物に著作物性があるかどうかとは、全く関係ないからです。それでも、中国の裁判を見ていると、当り前ですが先に権利を持ったと認められた方が裁判に勝ってます(クレヨンシンちゃん事件やシカゴブルズ事件を御参照ください。)。つまり、著作権の証明ができれば、裁判では有効で裁判に勝ことができる、といえるでしょう。

話をアメリカに戻します。近々アメリカ市場に進出するというならともかく、その予定もなく、「日本において著作権を主張するためだけ」に、アメリカの著作権登録をするのは、その(少なくとも現在の日本における)不確実性故に、私なら絶対しません。たまたま一度裁判で認められただけなのですから。もし「ジョイサウンド仮処分事件」以外に、アメリカの著作権登録制度を根拠として著作権か認められた日本での裁判例を御存知でしたら教えてください。

ですので、もし私ならば、日本での著作権裁判の話であるなら、公開著作物の場合は日本での著作権登録、未公開著作物の場合は公証制度、ともっと確実な証明手段を用います。


追記。
条約制度上、海外の同盟国の著作物は日本で当然著作権保護されます。しかし、海外の国での登録によるその著作権証明は、その国以外の国で確実に証拠になるかどうかは依然不確実といえます。だから、登録はその国のみで通用するもの、と考え、安易に登録するのはさけるべきではないでしょうか。その国に通用するその国での証明手段をとるべきでしょう。