知財管理技能検定1級ブランド専門業務試験合格への道かな?

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追求権 その1

一般的には「追及権」と表記される場合が多いです(下記の小川明子先生の書籍などでも「追及権」と書かれていますね)が、フランス語”Droit de suite”(英語で書けば”Right to follow”という意味。実際には英語ではこの権利は”Resale right”と呼ばれているようです。)をふまえて訳せば「追求権」の方があっているように私には思えますので、私はこちらで書きます。


「追求権」とは、絵画や彫刻などの美術の原著作物の原著作者に対し認められる権利でして、以下に簡単に説明いたします。

音楽著作物や、漫画や小説等書籍の著作物、その他複製できる著作物では、その複製物の売買により、著作者は収入を得ることができます。
しかし、美術の著作物では、著作者である芸術家には、「原」美術著作物の「最初の」売買だけで得られる収入が全て、と言えます。「原」著作物だけ、1回こっきりだけ、です。そして、無名の芸術家の作品は、無名ゆえに、例え素晴らしい作品でも、高値はつかず売買されるのが一般的です。場合によってはただ同然もありえます。
その後、その芸術家の評価が高まり、作品自体にもかなり高値がつくようになりました。そして、無名の頃の作品が、後々オークション等で高値で取引されたとします。しかし、もはやそのオークションでの収益は、芸術家には一銭も入ってきません。著作物の所有者しか収益を享受できないわけです。
そこで、「一度売買した美術の『原』著作物あるいは原著作物と認められる複製品が再度オークション等で売買される場合に、それなりの収益が美術著作物の原著作者である芸術家にも入ってくるようにする」、芸術家のこの権利が「追求権」なのです。

詳しいことは、下記の書籍を御参照ください。

文化のための追及権 ─日本人の知らない著作権 (集英社新書)

文化のための追及権 ─日本人の知らない著作権 (集英社新書)


なお、この権利は、欧州を中心として、一部の国々で認められていますが、アメリカや日本では認められていません。
著作権の条約であるベルヌ条約においては、「条約加盟各国は『追求権』を定めることができる(制定可能権)」とされているだけで、「追求権」を定める定めないについては、各国次第となっています。
制定している国々においても、その実質的な運用において、差があるようです。ですから、まだまだこれからの権利なのでしょう。

「追求権」において、重要なポイントの一つに、「消尽」との関係があります。つまり、一度適法に著作物(あるいはその複製品)が譲渡された場合、それ後原著作者(著作権者)の権利(譲渡権)はもはや及ばない、というものです(アメリカの場合は確か、譲渡のみならず、さらに映画の著作物における領布の場合まで消尽されてします。いわゆる「ファースト・セール・ドクトリン」です。)。日本の著作権法でも、消尽に関して明記されています(第26条の2)。
おそらくこのために、日本やアメリカでは、なかなか追求権は理解されず、著作権法にて制定されないし、また議論する人も少ないのでしょう。


で、この書籍の作者である小川明子先生による「追求権」のレクチャーが、とある学会主催で、先日、青山学院大学にて行われ、私も参加しました。次回はそのことも少し含めてこのブログを書こうかなと思います。