書籍紹介その35 商標実務入門
この書籍は、国内商標分野に限っての話ですが、知的財産管理技能検定1級ブランド専門業務の基本テキストになるのではないかと、あくまで個人的に思っています。
この書籍だけでは正直まだ不十分です。ですが、大事なことはだいたい一通りおさえてはいますので、「1級ブランド専門業務の最初の1歩のテキスト」としてはいいのではないかと思います。
また、知的財産管理技能検定1級ブランド専門業務試験のみならず「商標実務の学習者向けの基本的かつスタンダードな書籍」と考えていいのではないか、初心者から中級くらいの商標実務者なら一度は読んでおくべき書籍ではないか、と思います。
ちなみに、今回のブログで書くのは、上記のとおりの2016年11月にでた第2版について、です。私は第1版は読んだことはありません。
商標の「入門」と銘うった書籍は他にもありますが、この書籍には「ブランド保護」という視点が通底にあるように、私には思えます。
まず第1章で、わずか10数ページではありますが、「ブランド」について書かれています。そして、次の第2章以降は、商標法及びその制度(最終章は商標以外の法制度についてふれています)の説明となりますが、「ブランド保護」を意識して書かれているように私には思えます。特に、第4章の「商標権の管理・活用」は、まさに「ブランド保護」のための「商標権の管理・活用」といっていいと思います。
つまり、この「商標実務入門」という書籍タイトルは、「商標によるブランド保護実務入門」ともいえるのではないか、と私は思います。サブタイトルに「ブランド戦略から」とあることからも、「ブランド」を意識して書かれているのは間違いない、と私は思いました。
ちなみに、サブタイトルには「権利行使まで」とも書かれています。「権利行使」については第5章にて、この書籍の約半分のページを使って書かれています。それはつまり、この書籍では「ブランド保護」の実務について、商標権取得もさることながら、それ以上に商標権の「権利行使」を重要視している、ことを意味しているのだと思います。
閑話休題、この書籍を読んで思いましたのは、前述の通り、知的財産管理技能検定1級ブランド専門業務の、学習基本テキストとしてふさわしいのではないか、ということです。
ただ、この書籍を読み理解するには、事前にある程度商標法制度を理解している必要があると思います。少なくとも、知的財産管理技能検定2級における程度の商標法制度の知識は必要だと思います(これでもまだ不十分かもしれませんが。)。さらに理想を言えば、多少なりとも商標実務経験もあった方がいいかもしれません。
基本テキストと書きましたが、前述の通りこの書籍だけでは不十分です。
しかし、この書籍では、「ブランド保護」の観点のもと、商標法制度だけでなく、少しだけではありますが商標以外の法制度でのブランド保護についてもふれられています。もちろん日本の、です。また、ライセンスについて説明されている点、地域団体商標のところでは地理的表示制度にも触れている点、権利行使に関しては裁判手続や税関による輸入差止手続等まで書いてある点(輸入差止手続に関しては、供託金について説明があればなおよかったと思いました)等、いろいろな事項がかなり網羅されて説明されています(中用権まで書かれているとは驚きました)ので、その意味でも1級ブランド学習者がまず最初に読む書籍としてはうってつけではないかと思いました次第です。この書籍をとっかかりにして勉強をすすめていけばいいのではないか、と思いました。
巻末には、判例索引一覧のページがあり、私にはとても有難いです。そうそう、この書籍では、各章各文において、判例が適宜紹介されていて、勉強になります。
できれば、他の書籍やサイト等主たる参考文献の紹介においても、索引のための専用の参考文献一覧ページもあると、さらに私にはとても有難いです。本文(の備考等)にて適宜紹介されてはいますが、巻末に一覧である方が有難いです。
J【非連続不定期掲載】 JASRACの音楽教室からの著作権徴収に思う その1の特別編
(以下に書くことは、あくまで「私の個人的な意見」です。)
その1
J【非連続不定期掲載】 JASRACの音楽教室からの著作権徴収に思う その1 - 知財管理技能検定1級ブランド専門業務試験合格への道かな?
で追記しましたとおり、一番書くべきことを書き忘れたので、今回は「その1の特別編」として書きます。
著作権法制度がどうのこうのいう以前に。
今回の件で、一番問題なのは、JASRAC が「あまりに突然に」音楽教室からの著作権料徴収をアナウンスしたことにある、と私は考えます。
はっきりいえば、「今更になって著作権料徴収か?」と疑問をいだかざるをえません。
かつて、ダンス教室から著作権料を徴収するようになった時に、一緒に音楽教室からも著作権料徴収をすべきだったのに、それをせず、今更になって音楽教室から著作権料を徴収することにしたとは、「誰もがちゃんと納得のいく説明がない限り」は、不信感を招くことになり、JASRAC に対する反発がますます酷くなるだけ、だと私は考えます。
どれだけ著作権法制度における正当性があるかは今のところ私にはわかりませんが(今後、のんびりゆっくり書いていく予定です。)、正当性があるとして、誰もがそれを理解でき納得できるとは到底思えません。
まずは、わかりやすく説明をして、理解を得てから、音楽教室からの著作権料徴収をするべきだと思います。著作権法制度における合理性があるとして、まず理解してもらうことから始めないと。
前述のとおり、かつてダンス教室から著作権料の徴収を始めた時こそが、音楽教室からも著作権料を徴収する良いチャンスだったのに、それをしなかったJASRAC の落ち度。これまで徴収をすることなく放っておいたJASRAC の落ち度。そして、著作権料を徴収してこなかったことは、JASRAC の、JASRAC 会員に対する不誠実さのあらわれ、いいかげんさのあらわれ、以外のなにものでもありません。
別に音楽教室は最近できたものではありません。昔から、少なくとも前述のダンス教室からの徴収が始まった時には、すでに存在していたわけです。それに対して著作権料を徴収してこなかった、自分達の不作為という落ち度を、まずはJASRAC は謝罪するべき、と、私は考えます。
JASRAC が本当に音楽教室からの著作権徴収をするならば、まずはJASRAC の前述の怠慢について謝罪するべきではないでしょうか。
(不定期に、その2に続く。)
J【非連続不定期掲載】 JASRACの音楽教室からの著作権徴収に思う その1
(以下に書くことは、あくまで「私の個人的な意見」です。)
「 JASRAC が音楽教室から著作権料を徴収する。」と発表したことで、世の中に波紋を投げかけました。
対して、音楽教室をひらいている企業やヤマハ音楽振興財団などの団体は、「音楽教育を守る会」を結成、JASRAC に対抗する姿勢をみせました。
今回の件におけるSNSでの反応をみると、つくづくJASRAC は世間一般から本当に嫌われているのだな、と思いました(笑)。
私は今回の件について一度冷静になって考えてみるべきだと思います。
そこで、まず私は、大きく下記の3点を、論点としてとりあげ、考えていきたいと思います。
①JASRAC は、「音楽教室での、練習のために講師が生徒の前で楽曲を演奏する行為は、著作権法の『演奏権』に該当する行為、つまり『公衆に聞かせる行為』であり、著作権使用料が発生する。」と主張しましたが、この主張は妥当なのか。(『演奏権』とは?)
②①が認められるとして、音楽教室は著作権料徴収の対象とすべきなのか。(著作権料と教育)
③①②が認められるとして、JASRAC が主張する著作権料は妥当なのか。(正当な著作権料とは?)
また、関連して、
④JASRACは必要で存在すべきか。(音楽著作権管理団体の存在正当性)
⑤世間で言われるように、JASRAC 及び著作権法制度は本当に文化の破壊者なのか?(著作権の存在意義)
についても、できる限りで考えてみたいと思います。
ま、難しいテーマなので、のんびりと不定期に書いていくつもりです。
(不定期に、その2に続く。)
追記
一番書くべきことを書き忘れました。次回、その1の特別編として書きます。
J【非連続不定期掲載】 JASRACの音楽教室からの著作権徴収に思う その1の特別編 - 知財管理技能検定1級ブランド専門業務試験合格への道かな?
【再々々考】第20回1級ブランド専門業務学科試験問題 自分学習用解説 45問目
第20回1級ブランド専門業務学科試験問題 自分学習用解説 45問目について、再々々考します。
私の中では、この45問目だけは、うまく説明ができていなかったことがずっとひっかかっていました。43問目、44問目とはなんか勝手が違うといいますか。
で、何度目かの再考と説明を試みようと思います。
再考及び説明の前に、まず、現在英国はEUから脱退しようとしていますが、少なくともこの問題に書かれた裁判がおきた時、及びこの第20回1級ブランド専門業務学科試験の時は、まだ英国はEU加盟国の1つだったことは確実なことです。
そのことから、この時の英国商標法は、欧州共同体商標(当時、現在は欧州連合商標)つまりCTM(現在はEUTM)のハーモナイズを受けていたと考えられ、よってCTMでの考えをそのまま英国商標法制度に当てはめて考えることができる、のではないでしょうか。
これをふまえて、再考及び説明にはいります。
選択肢アは正しい文であることが判断できます。
その根拠として、私が以前紹介した書籍に、「共同体商標と共同体意匠の実務」(社団法人発明協会、松井宏記著)というのがありますが、これの75Pを読むと、この選択肢アの文が正しいことがわかります。
また、知的財産研究所の論文にも、この選択肢アの文と同じようなことが書かれていたのを読んだことがあります。
まあ、別に欧州や英国の商標法制度を知らなくても、日本の商標法制度をちゃんと理解できていれば、なんとなく感覚的に選択肢アは正しいと判断できると思います。
つぎに選択肢イも正しいと判断できます。
この選択肢イの文の大事なところは、後半部分、「調査によると…示す証拠を提出した。」の部分です。つまり「Nestleは使用による識別性獲得の証拠を提出した。」と書いてあるわけです。このことが事実がどうかはわかりません。しかし、選択肢イでわざわざ事実かどうかを問うて出題したとは思えませんし、45問目自体の出題意図から考えれば、選択肢イは45問目においては適切な記述と考えることができるのではないでしょうか。
選択肢ウをとばして、先にエについて。これも正しいと判断できます。
「不透明な包装で販売」されていることは、顧客の購入時に製品の形状を顧客は視認することができない、つまりこの製品の形状が出所表示機能や自他商品識別機能を発揮していないということであり、よってその製品の形状がその「使用によって識別性を獲得している」ことなどありえないわけで、ゆえにこの文は正しいことになります。
そして選択肢ウです。選択肢ア、イ、エが正しいので、消去法で選択肢ウの文が間違い、よって選択肢ウが不適切な文で正確、と解答を導きだすのは、試験時には当然アリですが、このブログではそういうわけにはいかないので、まあ説明してみます。
日本及びEUの商標法制度の場合は、立体形状に識別力がなくても、識別力のある平面商標が不可分的にこの立体形状に使われていれば、全体的に識別力のある立体商標として、商標使用による識別性は認められ、登録されます。(例えば、前述の書籍「共同体商標と共同体意匠の実務」の60Pを御参照ください。)
そして、前述のCTMと英国商標法制度とのハーモナイズを考えると、おそらく英国でも同様なのではないか、と考えます。
そうなりますと、選択肢ウの文の場合は、「使用による識別性」が「認められる」ものであり、「認められない」と書かれている選択肢ウの文は間違いといえます。よって選択肢ウが不適切な文で正解、ということになります。
私的にはこれでだいぶスカッとしております(笑)。
【裁判例を再考】第17回知的財産管理技能検定1級ブランド専門業務学科試験 自分学習用解説 31問目
今度の第26回知的財産管理技能検定1級ブランド専門業務学科試験に向け、過去問をやり直していた時に初めて気がついたのですが、第17回知的財産管理技能検定1級ブランド専門業務学科試験の31問目に、「関連する裁判例を考慮して」と書いてあるのに、今更ながら気がつきました(笑)。3年前のことなのに。
それで、各選択肢にあてはまる裁判例を探してみました。
選択肢ア ヌーブラ事件
選択肢イ Yチェアー事件
選択肢ウ 該当なし
選択肢エ 該当なし
選択肢ウと選択肢エは「該当なし」と書きましたが、ずばりそのままあてはまる裁判例はない、という意味でです。
それぞれの選択肢は、ウは不正競争防止法第2条1項2号(「著名」と書かれている点や、「混同を生じるおそれはあはりません」とある点からわかると思います)が関係する文、エは不正競争防止法第2条1項1号(「ここ数年に…人気のでた」の部分から周知性が、「見た目も…似てはいます」の部分から混同性があることがわかると思います)が関係する文、ということに気づくことができ、それぞれの条項文内容が理解できていれば、正誤の判断はわりと簡単です。
ウとエについては、ずばり該当する裁判例があるのではなく、それぞれの条項文に関するあらゆる裁判例を考慮して解答することができる、ということではないかと思います。
そして、選択肢ウと選択肢エの文は、どちらも不適切であることがわかります。この2つについてはさほど難しくはないかと。
むしろ、注意すべきは選択肢アと選択肢イです。
先に選択肢イについて書きます。イの裁判例は、おそらく「Yチェアー事件」です。選択肢の文の「医薬品の特許権…と同じです。」の部分から、いわゆる「ジェネリック家具」について書かれた選択肢の文ということがわかり、この裁判例をふまえた選択肢文であることがわかります。
この裁判例のポイントは、意匠権がきれたとしても、他の権利、例えば商標権が認められ取得できれば商標権侵害を主張、あるいは不正競争防止法違反を主張するなどすれば、商品形態を保護することが裁判において認められた、点です。
不正競争防止法ですが、この場合、商品形態ということで不正競争防止法第2条1項3号を考えられた方もいらっしゃるかもしれませんが、不正競争防止法第2条1項1号又は2号であることがポイントです。商品形態も、第2条1項1号又は2号でいう「商品等表示」になると考えられる場合があり、この裁判例ではそうです。そもそも、意匠権がきれたということは、第2条1項3号による商品形態の保護期間はとうに過ぎていることになりますので、第2条1項3号の適用はありえません。
よってこの選択肢イの文は不適切であることがわかります。
次に選択肢アについてですが、私は最初はどの判例かわかりませんでした。それで、あらためていくつかの不正競争防止法に関する裁判例を読み直しました。そこで、おそらくこれだろうと見つけたのが、「ヌーブラ事件」です。
判例を細かく読むと、この選択肢アの出題と似たような状況により、不正競争防止法第2条1項1号が適用されなくなってしまった旨が書かれていたので、おそらく「ヌーブラ事件」ではないかと、私は考えました。
選択肢の文を読みますと、「商品Pの形態は…類似品が出現し…有名な商品になりました。」とあり、このことにより「商品Pの形態自体については…第2条第1項第1号でいう周知な商品等表示には該当しなくなったと思います。」とあり、これらと似たようなことが「ヌーブラ事件」の裁判例の文にありました。ここでも第2条1項3号ではなく第2条1項1号ですね。
よってこの選択肢アの文は適切で正解であることがわかります。
アニメのタイトルと商標権
他の調べものをインターネットでしていてたまたま偶然みつけたのですが。
古い作品の話ですが、原作マンガのアニメ化の際、マンガとアニメでタイトルが変わってしまうものがありました。
その理由が、すでに登録されている商標があり、その商標権侵害になるため、その商標の言葉を用いたタイトルは使えない、というものらしいです。本当なのでしょうか?
具体的なアニメのタイトルの一例としては、かなり古いですが、
「魔法使いサリー」(原作マンガのタイトルは、「魔法使い『サニー』」※※)
「黄金のガッシュベル」(原作マンガのタイトルは、「黄金の『ガッシュ』」)
などです。
※『』の部分が登録商標。
※※原作の段階ですでに、サニーからサリーに変わったそうです。ただ、アニメ化の話が持ちあがったために変えたそうです。
私は違和感を感じます。商標権侵害になる、というのは違うのではないでしょうか。誤解というか、間違いというか。
そもそも、著作物のタイトルが、商標権侵害になるのでしょうか?
法律の話をすれば、商標法の規定で、著作権に抵触する商標は、その抵触する部分については、商標の使用が認められません(商標法第29条)(なお、使用が認められなくなるだけで、登録自体はそのままになります)が、逆に商標権に抵触する著作物についてはその著作権を認めないとする規定は、著作権法にはありません。ですから、商標権侵害ということにはならないと思うのですが。
また、裁判においても、著作物のタイトルは「商標としての使用」にあてはまらないので、商標登録された言葉を使用していても、商標権侵害にはならない、と判示されました(例えば、under the sun事件等。新しい判例ですが。)。
そう考えると、どうやら、著作物のタイトルが商標権に抵触し侵害するとして禁じられたために、アニメのタイトルが変更されたわけではなさそうです。
著作物のタイトルが商標権侵害というわけではなく、制作サイドが、単に「ある特定の商品の宣伝になってしまうから」という理由でそうならないよう配慮しただけ、または過剰に商標に反応したためなのではないか、というのが事実なのではないか、と私は考えます。「魔法使いサリー」の場合は、そうなのではないでしょうか。
なお、「サニー」は日産自動車の商標と思われがちですが、実はもともとソニーの商標です(後で、日産自動車も「サニー」を商標登録しています。)。当時、日産自動車はソニーから商標の使用許諾を得ていたらしいです。でも、実際にそのようなことがあったのでしょうか?自動車と電化製品とでは全く異なる類区分の商品になりますから、ソニーがその類区分で権利を持っているとは思えず、自動車を指定商品としての登録はしていませんから実際には権利を持っていませんので(もしかしたら当時は持っていたのかもしれませんが、でもそれは考えにくいです。)、よってソニーは日産自動車に対して許諾をするというような立場ではなく(そもそも自動車を指定商品として登録していませんから)、日産自動車はサニーという商標を自社が販売する自動車に使ってもなんの問題もない、と思うのですが。もし本当に許諾の事実があったのであれば、日産自動車もソニーも(少なくともその当時においては)商標法制度の基本的なことすら全く理解していなかったことになります。
また、「黄金のガッシュベル」の場合は、ガッシュという言葉が英語のスラングで女性器を表す言葉だから、だそうです。本当かどうかわかりませんが。
ちなみに、昔、「国松様のお通りだい」というアニメがありました。もともとこれはハリスガムという当時あった企業がスポンサーをしていた「ハリスの旋風(かぜ)」というタイトルのアニメで、実は今でいうタイアップ作品でしたが、その後のカラーリメイクの際、ハリスガムがスポンサーをおりたため、「ハリスの旋風」のタイトルをやめて、「国松様のお通りだい」というタイトルに変えたそうです。こういう事例もございます。
とにかく、商標権侵害になるために原作マンガのタイトルがアニメでは変更されてしまった、というのは、後付けの嘘の説明のようです。
なんにせよ、「著作物であるアニメのそのタイトルは商標権侵害にはなりません」ということです。
もっともアニメを商品化(おもちゃとかお菓子とか)した場合は、それはもはや著作物そのものではないので、こちらは商標権侵害が成立すると考えられます。もしかして、そこまで考えてのタイトル変更だったのでしょうか。
キングコング西野氏の「金の奴隷解放宣言」発言に思う (追記あり)
お笑い芸人であるキングコング西野氏が、自身がだした絵本をWebで「無料」公開した件にふれ、「金の奴隷解放宣言」たる発言をしたそうです。
安易に「無料」化するのはどうかと思いますが、いろいろなことに気を配りながらちゃんと考えた上でするならば、そしてそれに対して自分自身のみが負担になる限りでは、「無料(あるいは採算割れするほどの廉価)」については、私は「有り」だとは思います、コンテンツに限らず、なんにしても。もちろんそれは、そうするだけのメリットの存在、あるいはそうしても別な形で利益が生まれる、あるいはそうしなければならない特別な必要性がある、などの理由があれば、の話です。
ただ、どんなことでも基本原則は「有料」です。
なぜなら、みなそれなりにコストがかかっているからです。人件費等労働力に関わる費用、原材料費、設備投資費、宣伝公告費、事業のために銀行などから借りた金銭の返済金、出資者にはらう配当、などなど。そして、価格にはこれに自分の儲け分も加えます。コストがないものなどあり得ません。ですので、コストを回収して元をとり、かつさらに利益をださなければなりません。当然のことです。
さらに加えて、当たり前ですが、知的財産権それ自体には相応の価値があります。これも考慮され価格に反映されなければなりません。その価値をも簡単に無視してしまい無料にしてしまうのは、いくら(おそらく)権利者(の1人)だとしてもいかがなものかと私は思います。
ですから、本来は「無料」なんてあり得ないことです。でも、前述の理由があるならば、「無料」という選択もある、ということなのです。
今回のケースもおそらくそういうことだと思います。ですから「無料」はありだとは思います。ただ、それはあくまで自分自身の負担の範囲に限定した上で無料にすべき、と私は考えます。
そして、今回の件における西野氏の言動について、全くいただけない点や疑問点が、私にはあります。
まず、西野氏はこの絵本をだすにあたり、クラウドファインディングによる資金調達をしたらしいですが、そうだとすると、出資者に何も説明もなく今回のWebでの「無料」公開をしたならば、それはクラウドファインディングの出資者を裏切るあるいはだました行為なのではないかと思います。加えて、クラウドファインディングにおける契約内容にもよりますが、場合によっては故意に損害を与えた行為にもなりかねません。その場合、裁判をおこされたら、おそらく西野氏は負けるのではないか、と個人的には思います。
また、この絵本をだすにあたり、いろいろな方々の力を借りたのではないかと思います。その中の一部の方々には、なんらかの権利が発生しているのではないか、と考えます(前の方で「(おそらく)権利者(の1人)」と書いたのは、この意味もあります。)。その権利関係をちゃんとクリアしてからWebでの「無料」公開をしたのでしょうか?特にWebでは、そうとう意識しないと、知的財産権をはじめとするあらゆる権利関係が、わかりにくくうやむやになりがちです。そして知的財産権(特に著作権)は比較的タダ同然と認識されがちです。もっとも、権利関係はないとしても、関係者に対して一言あるべきが礼儀というものだと思います。まあ、そのあたりは、流石に礼儀を欠くようなことはしていないと思いますが。
そして、前述の「金の奴隷解放宣言」という発言です。これは他全てのクリエイターを(そして自分自身の存在をも)否定しバカにした発言と解釈されても仕方ないと思います。また資本主義のシステムそのものを否定する発言でもあると思います。ならば、キングコングのお笑いも、高いといえば、今後は無料にしてもらえるのでしょうか?少なくとも、子供はタダで見ることができるようにするのでしょうか。しないでしょうに。また、いっそのこと社会主義の国に亡命でもなさったらいかがでしょうか(笑)。
それから、西野氏は、子供達の要望に応えるような形で、今回のWebでの「無料」化を考え実行したそうですが、これは西野氏自身のみの考えなのでしょうか、それとも関係者全員の総意なのでしょうか。前者ならば、全ての負担を一身で背負ったのでしょうか。もちろん後者ならば何の問題はございません。まあ、子供をもちだしてきて美談にしたのは、話をはぐらかそうとしているとしか思えず、私は西野氏にあざとさを感ぜずにはいられません。
☆後日加筆☆
その後わかったのですが、西野氏の思惑は深く、西野氏なりの思慮があった上で、今回のようなことをしたとのことです。それは、どうやらある種のフリーミアムの実践のようです。けっしてクリエイターをバカした行為ではありませんでした。これならば納得できます。
でも、西野氏は、なんていうか不器用といいますか。もっと誤解されないスマートなやり方や言い方があったと思うのですが。